前半戦の総出場時間チーム3位の本田圭佑 「脇役」に徹して得た新たなスタイル

片野道郎

強まる“左ルート”への偏り

ミランの攻撃はメネス(中央)の力を最大限に引き出すことを主眼において組み立てられている 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 現在のミランで、最も決定的な違いを作り出しているプレーヤーがメネスであることは、誰の目にも明らかだ。当然ながら、チームの戦術もそのメネスの力を最大限に引き出すことを主眼において組み立てられることになる。

 実際、ボナヴェントゥーラは先週あるインタビューの中で「前線ではメネスが自由に動き、僕たちはそれに合わせて補完的な動きをすることになっている」と語っていた。攻撃の基準点となるのは常にメネスであり、ボナヴェントゥーラや本田をはじめ、周囲のプレーヤーはそれに従属する形で動く約束事になっているということである。

 ナポリ戦から復帰し、中盤のゲームメークをほぼ一手に担うようになったモントリーヴォのプレー選択を見ても、ボールを持ったらまずはメネスを探す、メネスに最短距離でボールを送り届けられる組み立てルートを選ぶ、という傾向が顕著にうかがえる。モントリーヴォ復帰後の2試合では、“左ルート”への偏りがさらに強まったという印象がはっきりとある。

 確かなのは、少なくとも現時点において、ミランの攻撃の「主役」ははっきりとメネスなのであり、ボナヴェントゥーラも本田も、あくまで「脇役」に徹するという役回りが要求されているということ。本田にとっては、ボールに絡む機会、本来の持ち味を発揮する機会が制限される結果になっていることも事実だが、チームが全体として機能しているとすれば、優先順位はもちろんそちらの方にある。
 
 ただしこの試合では、本田がプレー機会をほとんど得られなかった前半、ミランがほとんどチャンスを作れなかったことも事実である。守勢に回って自陣に押し込められる時間帯が長く、ボールを奪っても前線にはメネスしか残っていないためパスの出しどころがない。結果としてビルドアップのスピードが遅く、“左ルート”で敵陣まで持ち込んでも浅い地域で攻撃が行き詰まってしまう場面が多かった。

 ミランが攻勢に立ったのは、後半最初の20分ほど。本田が攻撃に絡んだ場面も、ほとんどはこの時間帯に集中している。

 後半6分には左サイドからのアーリークロスを競り合って落とし、メネスのシュートをアシスト。10分、17分には右サイドから左足で、中央に走り込んだボナヴェントゥーラに合わせるクロスを折り返した。

 最も目立ったプレーは、右サイドで3人の敵に囲まれながらダニエレ・ボネーラとのコンビネーションで抜け出し、アンドレア・ポーリからの落としをダイレクトで叩いて、裏に飛び出したメネスにスルーパスを送り込んだ22分のそれ。残念ながらメネスがスタートを切るタイミングがズレてオフサイドになってしまったが、パスそのものはコースも強さも完璧だった。

 やっと攻撃に絡む機会が増えてきたところだっただけに、この後すぐに起こったアルメロの退場劇に伴う途中交代は残念だったというしかない。

成長の証はアジアカップで

開幕からの16試合全てでピッチに立ち成長を遂げた本田。アジアカップでの活躍が期待される 【写真:アフロ】

 こうして、ミランにおける本田圭佑の2014年は、やや不完全燃焼感を残す形で幕を閉じることになった。とはいえ、開幕からここまで16試合全てでピッチに立ち(うち15試合はスタメン)、総出場時間はメネス、ナイジェル・デ・ヨングに次いでチーム3位の1216分、6得点3アシストという数字を記録したのだから、総合的に見れば明らかにポジティブなシーズンを送っていると言うことができる。

 10月19日のヴェローナ戦(3−1)を最後に2カ月間ゴールから遠ざかっていること、11月30日のウディネーゼ戦(2−0)を除くと、このところは「主役」として最後の30メートルで違いを作り出す活躍を見せていないことを、ネガティブに捉える向きもあるかもしれない。しかし、本稿や前節ナポリ戦のレビューでも見てきた通り、本田はチームのメカニズムの中で攻守両局面に渡って貢献を果たし、インザーギ監督から大きな信頼を勝ち取っている。トーレス、エル・シャーラウィという大物をベンチに追いやってレギュラーの座を不動のものにしていることは、その何よりの証拠だ。

 右ウイングとしてのプレースタイルも、試合を重ねるにつれて着実な進化を見せているように映る。足下にボールを要求し、そこからターンしてドリブルで仕掛けたりスルーパスを送り込んだりするトップ下的なプレーと、自ら裏のスペースに飛び出してパスを引き出し一気にゴールを目指すFW的なプレースタイルを効果的に織り交ぜ、時には前線に詰めてクロスに飛び込んだりハイボールを競ったりする純粋なセンターFWのような動きも自然にこなしている。

 1月にアジアカップを戦う日本代表において、本田はミランにおけるメネスのように、自らが基準点となって周囲がそれに合わせる絶対的な「主役」としての役回りを担うことになるはずだ。アジアカップが、この半年間ミランで積み重ね、磨き上げた新たなプレースタイルを存分に発揮する舞台になることを誰よりも期待しているのは、ほかでもない本田自身だろう。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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