MLSへ旅立つカカの栄光と挫折 今も謙虚さを失わないスーパースター

沢田啓明

カカのサポートでよみがえった選手

カカのサポートもあり、パト(中央)とガンソ(左)は劇的にプレーの内容を向上させた 【Getty Images】

 古巣への貢献は、ピッチ内にとどまらなかった。スーパースターでありながら、常に謙虚に、真摯に練習に取り組み、時には休日を返上してコンディションを整えた。試合では、守備の役割も果たそうと懸命に走り回った。このような姿勢が「中堅、若手にとって最高のお手本」(ムリシー・ラマーリョ監督)となり、チーム全体にポジティブな影響を与えた。

 彼のサポートを得て、プレー内容を劇的に向上させた選手がいる。元ブラジル代表FWアレシャンドレ・パトである。今年2月、コリンチャンスから期限付き移籍したのだが、ライバルクラブからやって来た身であり、しかも低調なパフォーマンスが続いたため、サポーターから厳しく批判された。5月末の試合では、チームが勝ったにもかかわらず1人だけブーイングを浴びるという残酷な仕打ちを受けた。

 2人はミランで一緒にプレーして以来、親しい関係だった。クラブのレジェンドが外様としての苦しみを味わう7歳年下のストライカーをまるで弟のようにいたわり、チームに溶け込めるよう気を配った。メディアに対しても、「彼は特別な才能を備えた選手。必ずチームが彼に感謝する時が来る」と言い続けた。パトは次第に心身両面のコンディションを上げてゆき、8月10日のヴィトリア戦で2得点。以後、常時出場して得点を重ね、チームに欠かせない存在となった。

 元ブラジル代表MFガンソも、カカの恩恵を受けた1人だ。12年9月、サントスからサンパウロへ移籍してきたが、調子の波が大きかった。しかし「お前の能力はすごい。90分間、集中力を保つことができれば、代表のレギュラーになれる」とカカに励まされ、自身のキャリアハイに近いプレーを見せるようになった。

 今年後半、サンパウロの成績は急上昇し、ブラジル全国リーグで準優勝。来年のコパ・リベルタドーレス出場権を獲得した。ラマーリョ監督は「カカの加入がチームを一変させた」と言い切り、「あれほど素晴らしい人間性を備えた選手は、世界のどこにもいない」と激賞した。

「僕のプレーでMLSを盛り上げたい」

 一方、私生活では今年11月、9年間の結婚生活に終止符を打った(編注:すでに6月には離婚が成立していた)。苦渋の決断だったはずだが、心中の葛藤を全く表に出さず、求められた仕事を全うしたのは立派だった。

 オーランド・シティとの契約は18年末まで。本人は「僕のプレーでMLSを盛り上げたい。また、アメリカのスポーツ・マーケティングは世界一進んでいると思うので、自分も多くのことを学びたい」と語る。

 MLSで3年間プレーした後は、もう欧州へ戻ることはないだろう。もし現役を続けるとすればサンパウロだろうが、そのままユニホームを脱ぐ可能性が高い。引退後については「何らかの形で、フットボールの世界で働きたい。現時点では、スポーツ・ディレクターのような役職をイメージしている」と漏らす。

 カカの選手としてのキャリアは、終点に近づいている。しかし、良識とモラルを備え、欧州と米国でクラブ経営とスポーツ・マーケティングの知識を身につけ、ポルトガル語、イタリア語、スペイン語、英語を流暢に操る人材は、ブラジルは言うに及ばず、世界のフットボール界においても貴重だろう。将来、選手として以上にフットボールの発展に貢献する存在となるかもしれない。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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