最終節、浦和は人事を尽くして奇跡を待つ “山岸の奇跡”がチームを奮い立たせる

神谷正明

わずか2週間で立場が激変した浦和の選手たち。最終節を前に何を思うのか 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 2014年のJ1リーグも、いよいよ6日に最終節を迎えようとしている。優勝、残留などそれぞれ目指す場所は違えども、15時30分から始まるゲームで、クラブの命運が分かれるのは同じ。

 最終節を目前にして首位から陥落した浦和レッズはホームに名古屋グランパスを迎え撃つ。勝利してもなお届かないかもしれない。そんな絶望を前に何を思うのか。週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』では、浦和を追い続ける神谷正明が現在の心境に迫る。

まさかの首位失陥……

 やるべきことははっきりしている。

 思い描いていた未来とはほど遠い現実に打ちのめされたが、もう腹(はら)はくくった。目の前の試合に勝つ。今、選手たちの頭にあるのはそれだけだ。浦和は6日、逆転優勝に望みをつなぐためにホームで名古屋を倒しにいく。

 わずか2週間で浦和の立場は激変した。ワールドカップによるリーグ中断期間を首位で迎え、その後も粘り強い戦いでトップを走ってきた。しかし、11月22日のガンバ大阪とのホームゲームで終了間際に2失点を喫して敗れると、1週間後に行われたサガン鳥栖とのアウェー最終戦でも終了間際の失点でまさかの引き分けに持ちこまれ、最終節を前にして第19節(8月9日)からずっと守り抜いてきた首位の座から陥落してしまった。

 内容的にはどちらの試合も決して悪くなかった。むしろ、今季の強みを前面に出して戦えていた。セカンドボールに必死に喰らいつき、球際では泥臭くやり合う。だが、G大阪戦では攻めて勝ち切ろうとしたら手痛いしっぺ返しをくらい、鳥栖戦では守って逃げ切ろうとしたら最後にガードをこじ開けられた。ベンチの采配を含めてすべてが裏目に出てしまった。

 何をしても望むような成果が出ないという現実はあまりに残酷だ。自分たちで招いた結果だからこそ、負った傷も深い。選手たちは口々に気持ちの切り替えを強調したが、それが簡単な作業でないことは誰の目にも明らかだった。

希望をもたらす“浦和の男”

先日のプレーオフでゴールを決めた山形のGK山岸も“浦和の男”。このプレーに選手も奮い立つ 【写真:アフロ】

 だが、そういった暗澹(あんたん)たる状況下において“浦和の男”が一筋の希望をもたらした。鳥栖戦の翌日に行われたJ1昇格プレーオフ準決勝のジュビロ磐田対モンテディオ山形戦、後半アディショナルタイムに突入した際のスコアは1−1。山形の敗退がまさに決まろうとしていた時、ラストチャンスのCKにGK山岸範宏が攻め上がると、FW顔負けのスーパーヘッドを決めて山形に歓喜をもたらしたのだ。

 山岸は6月に山形へ期限付き移籍するまで、浦和で14シーズン過ごした。決して器用にボールを扱うタイプではないことは浦和にいる者ならば誰もが知っていることだ。その山岸が絶体絶命の状況でファインゴールを決め、一生に一度あるかないかの大仕事をしてみせたのだ。

 宇賀神友弥は縮こまっていた背中をバシッとたたかれた思いがした。

「どう気持ちを切り替えていいか分からなかったけど、ギシさんのゴールがすべてを吹き飛ばしてくれた。気付いたら吹っ切れていた。ネガティブな思いに包まれていたけど、信じてやれば可能性があるんだと思わせてくれた」

 最後まであきらめなければ何かが起こる。フィクションの世界なら陳腐だと一笑に付されかねない奇跡を、身内が実際に引き起こしたのだ。この事実に奮い立たないわけがない。梅崎司も「鳥栖ではやられてしまったけど、その逆もあり得るというのをギシさんが見せてくれた。自分たちを出し切らないと何も始まらない」と語気を強める。

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著者プロフィール

1976年東京都出身。スポーツ専門のIT企業でサッカーの種々業務に従事し、ドイツW杯直前の2006年5月にフリーランスとして独立。現在は浦和レッズ、日本代表を継続的に取材しつつ、スポーツ翻訳にも携わる。

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