F1は再び“キテマス感”を起こせるか? 鍵はホンダと“勝てる”日本人ドライバー

田口浩次

現在のF1に“キテマス感”はない

いよいよ「マクラーレン・ホンダ」のテストが始動。来季への期待は高まるが、さらにファンを熱狂させるには日本人ドライバーの起用、活躍が欠かせない 【写真:ホンダ】

 しかし、世界各国のテレビ視聴者数やサーキットへと実際に観戦に来る観客数は昨年よりも悪化している。日本においては、2年ぶりに復帰した小林可夢偉に期待が集まったものの、12年の日本GPにおける3位表彰台のような熱狂は残念ながらなかった。それどころか、チームの消滅が春先から話題になるような状態だった。正直、現在のF1に“キテマス感”を感じている人はかなり少なくなってしまったのが現実だろう。

 では、再びF1に“キテマス感”は来るのだろうか? 現在、日本で“キテマス感”を最も感じさせているスポーツはテニス、フィギュアスケート、そして海外サッカーあたりだろう。

 これらに共通しているのは、どれもが“人”に焦点が定まっているということだ。現在30代後半以上のF1ブームを知る人ならお分かりだろうが、80年代後半、当時のF1ブームはもちろんホンダという自動車メーカーのエンジンにも注目は集まったが、ファンはアイルトン・セナ、アラン・プロスト、ネルソン・ピケ、ナイジェル・マンセル、中嶋悟といったドライバーたちの個性に熱狂した。そして90年に鈴木亜久里が日本GPで3位表彰台に上がり、そのブームはピークを迎えたと言っていい。

 これは他のスポーツでも同じで、ゴルフならアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラウス、トム・ワトソンといった世界のトッププレーヤーに青木功が挑戦する姿と、国内で活躍する尾崎将司、中嶋常幸、倉本昌弘らが人気を盛り上げた。サッカーではJリーグ発足で世界のトッププレーヤーであったジーコが日本へ来たことで、多くのトップ選手がJリーグに参加しブームを生んだ。結果としてJリーグを頂点とするプレーヤーの育成や世界市場からの注目が集まり、現在の海外サッカーにおける日本選手の活躍へと発展していった。プロ野球も野茂英雄が一人MLBへ挑戦し、そこからイチローや松井秀喜、現在の田中将大やダルビッシュ有の活躍へとつながった。

ホンダの復活だけでは足りない

 つまり、最初の“キテマス感”は世界のトップ選手に挑戦する切符を手にした日本人選手がいることが大切だ。だが、ファンというのはぜいたくなもので、現在のMLBのように、それが当たり前になると徐々に注目度は下がってしまう。次の“キテマス感”を生み出すためには、常にトップを争うレベルの日本人がいることが求められる。それが現在のテニスやフィギュアスケート、海外サッカーの“キテマス感”だと言えるだろう。それぞれ最初のブームを乗り越え、より高いステージでの“キテマス感”を生んでいる。

 話をF1に戻すと、実はF1は過去に何度も次の“キテマス感”を生むチャンスがあった。ベネトンに声を掛けられ、シューマッハのチームメートになるチャンスがあった片山右京であったり、ホンダ幻の第三期と言えるタイミングで乗る可能性が高かった高木虎之介であったり、ホンダ第三期活動でシートを得た佐藤琢磨らだ。だが、最も“キテマス感”を生むチャンスが大きかったのは、トヨタの育成プログラムでカート時代から注目を集めていた、中嶋一貴であり小林可夢偉だったろう。
 08年のリーマンショックがなければ、10年あたりは、もしかしたら日本チームで、日本人ドライバーがワールドチャンピオンを争うレベルにまで達していたかもしれない。

 では、F1は再び“キテマス感”を呼び起こせるのだろうか? 最大の可能性は来年からマクラーレン・ホンダとして復活するホンダの動向だ。もし、ホンダが復帰後いきなり全戦全勝するような強さを見せたとしても、88年のようなインパクトをファンに与えることはないだろう。それでは過去の復活でしかない。やはり、ホンダが“勝てる”と信じた日本人ドライバーを積極的に起用し、ホンダとともに“人”に焦点を当てる複合的な戦略を期待したい。そうすれば、きっとテニスやフィギュアスケートのように“キテマス感”を生み出せるはずだ。

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