ポルシェがF1参戦!? 急加速の可能性も=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第35回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

まずはル・マン、世界耐久選手権の制覇が目標

ポルシェの当面の目標はル・マンに勝つこと。実現すれば、その後のF1プロジェクトが急加速するかもしれない 【Getty Images】

 この技術関係者の言葉は聞くに値する。その証拠に、ポルシェはバイザッハの研究所・テストコースに併設して、素晴らしく近代的な風洞実験設備を完成させている。ここではWEC用のLMP1モデルの実験はもとより、市販スポーツカーの空力テストを行っているが、F1マシンの開発に十分耐えられる設備だということだ。

 ただ、ドイツの自動車雑誌など一部で噂(うわさ)されているように2017年からF1に参戦するとなると、今から車体開発をしなければならないから、WECを始めたばかりの現状ではそれは無理だろう。しかも、ル・マンやFIA耐久選手権を制するのは、ポルシェにとってもそれほど簡単なことではない。となると、F1への参入はもう少し時間を置いてからということになりそうだ。

 ポルシェのF1参戦をWECで戦っている関係者に尋ねたら、もちろん言下に否定された。WECに出てきたばかりのポルシェにF1参戦を尋ねるのは時期尚早であり、否定されるのは分かっていたが、あえて聞いてみたのだ。テクニカルディレクターのアレックス・ヒッチンガーも一笑に付したが、技術者は自分たちが手がけているものが形になるまで公表はしない。彼は今、WECのパワーユニット開発の指揮を執っており、F1参戦よりまずWECで勝つこと、そしてル・マンに勝つことが当面の最大の目標だ。ゆえに、一度でもル・マンに勝つとポルシェのF1プロジェクトは急加速する可能性がある。

VWグループ牛耳るピエヒ会長次第

 アウディとポルシェのF1参戦の話に代表されるように、最近のドイツの自動車メーカーは世界スケールのモータースポーツ活動に拍車がかかっている。メルセデスはすでにF1でタイトルを獲得する活躍をしており、それはAMGブランドをはじめとするスポーティーイメージの創造に大きく寄与している。もちろんアウディのル・マンをはじめとするWECでの活躍は他を寄せつけず、ポルシェはかつてのスポーツカー王者のポジションを取り戻すためにWECに出てきた。つまり、彼らはモータースポーツ活動が企業イメージを助けることを重々承知しており、収益率の良い高価なスポーツ仕様車の販売の後押しをすることを知っているのだ。

 先に登場願ったポルシェに近い技術関係者は、それでも最後にこう言った。「ポルシェのF1参戦の時期は、VW(フォルクスワーゲン)グループを牛耳る(フェルディナント)ピエヒ会長の頭の中にある」と。おっと、これは前回の見聞録でアウディのF1参戦に触れたときのまとめと同じではないか。

 しかし、考えてもみるがいい。VWにしろ傘下のアウディ、ポルシェにしろ、モータースポーツ活動の是非を決めるのはVWグループのトップに座るピエヒ会長である。日本の自動車メーカーで経営陣のトップに座る者の中で、モータースポーツが自社の経営にどこまで影響を与えるか承知している者がいるだろうか? 彼らが、「さあ、うちもF1を始めよう」と言うだろうか? 日本にピエヒ会長はいそうにない。

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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