スポーツ庁新設と日本のスポーツ政策の今=東京五輪まで6年、日本の司令塔は!?

高樹ミナ

抑えておきたいスポーツ関連団体の役割と関係性

日本のスポーツの推進には関連団体の存在が欠かせない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本のスポーツの推進には日本体育協会(日体協)、国内競技連盟(NF)、日本オリンピック委員会(JOC)、日本障がい者スポーツ協会および日本パラリンピック委員会(JPC)、そして日本スポーツ振興センター(JSC)といった関連団体の存在が欠かせない。
 まず日体協は各都道府県の体育協会を統括し、国民体育大会の開催やスポーツ少年団の育成、地域スポーツにおける指導者の養成などに取り組んでいる。日体協にはNFや日本障がい者スポーツ協会も加盟しており、JOCも1989年に分離・独立するまでは日体協の中にあった。

 NFは各競技を統括し、「競技力の強化と選手の育成」「競技の普及」にあたる。その範囲は地域スポーツからトップスポーツまで幅広く、陸上競技であれば日本陸上競技連盟、水泳ならば日本水泳連盟などといった名称で呼ばれている。

 JOCは定款によれば「オリンピック・ムーブメントの推進」と「オリンピック競技大会ならびに国際競技大会への選手派遣」が大きな役割だ。わが国唯一の国内オリンピック委員会(NOC)として、国際オリンピック委員会(IOC)や各都市のオリンピック・パラリンピック組織委員会とのやり取りも行う。他方、選手強化のための国の補助金をNFへ配分する役割も担ってきた。

 日本障がい者スポーツ協会および日本パラリンピック委員会(JPC)は、日本の障がい者スポーツを統括する団体として、主に障がい者の生涯スポーツの促進や大会開催、パラリンピックを目指す選手の育成・強化、日本代表選手団の派遣業務などを行っている。

 そしてJSCは、スポーツ振興くじのtotoやBIGの販売で知られるが、国の独立行政法人として文部科学省からの委託事業を請け負っている。例えば国立競技場の建て替えやナショナルトレーニングセンターの管理・運営、国際競技大会でメダル獲得を支えるマルチサポート事業、あるいはスポーツ庁新設にも関わるスポーツ情報戦略の強化も担う。また、スポーツ振興くじの売上を助成金としてNFやアスリート個人、地方のスポーツ団体や公共団体などに配分もしている。

 スポーツの推進に欠かせないお金の流れについては、JOC傘下の競技団体で強化資金の不正受給やずさんな経理処理が相次いで発覚したことからJOCの管理能力が問われ、国が公的資金の流れを一元化する仕組みづくりを進めているところだ。文部科学省所管の新たな独立行政法人がその役割を担うといわれ、これにはJOCの反発もあったと伝えられるが、東京オリンピック・パラリンピックの開催を6年後に控えた今、各関係団体が本来の役割に立ち返りノウハウを生かしながら、協力関係を築くことが求められる。

世界のスポーツ政策はどうか

シンガポールの一大複合施設「スポーツ・ハブ」はスタジアムやショッピングモールが融合し多くの人々を集めている 【写真:Action Images/アフロ】

 日本のスポーツ行政の新たな枠組みを考えるとき、諸外国の例は参考になる。JSC情報国際部のメンバーとして英ロンドンを拠点に、さまざまなスポーツ先進国の行政と政策をつぶさに見てきた専修大学の久木留毅教授は、今年4月の帰国直後からスポーツ庁の設置準備に携わる。現地で痛感したのは、どの国々もガバナンス(統治体制)が整い、独自のプランを持っているということだ。

「例えば英国では文化・メディア・スポーツ省(DCMS)がスポーツ行政を所管し、政府系機関であるUKスポーツをエリートスポーツ政策の執行機関として機能させています。日本でいう独立行政法人ですね。エリートスポーツの強化に重点を置き、メダル獲得に狙いを定めたNFへの公的資金配分を担っています。一方、地域スポーツの振興はスポーツイングランドという、やはり政府系機関が担っています」

 UKスポーツのそれは「妥協なき投資プラン」と呼ばれ、メダル獲得数のみが目標達成の指標だ。その結果、地元開催のロンドン大会では米国、中国に次ぐ3番目の金メダル獲得数を挙げた。しかし、「まったく同じやり方が必ずしも日本に合うわけではない」と久木留教授。ほかにもオーストラリアには「ウイニング・エッジ2012−2020」という、今、世界で最もホットといわれる10年プランがあるし、同じアジア圏のシンガポールにも国民のスポーツ機会創出に重きを置く「Vision2030」と呼ばれるプランがある。そのシンボル的存在の一大複合施設「スポーツ・ハブ」はスタジアムやショッピングモールが融合し、多くの人々を集めているそうだ。

「諸外国ではスポーツ界だけでなく、それ以外の業種からも各分野プロフェッショナルが集まり、情報やエビデンス(根拠)に基づくスポーツ政策が練られています。現在進行しているメダル獲得のためのゴールドプランは、12年ロンドン大会前から16年リオデジャネイロ、さらには20年東京をも見据えて始動しているのです」

 そう語る久木留教授は、オリンピック・パラリンピック招致を勝ち取り世界から注目されている今こそ、日本も世界に誇れるプランを打ち出すチャンスだという。しかし、残念なことに肝心のプランがまだできていない。20年まで6年を切った今、スポーツ行政の司令塔となるスポーツ庁の一刻も早い設置が待たれる。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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