本田圭佑が今あえて貫くプレースタイル ダービー直後に語った“新しいものさし”

木崎伸也

「持ち味ではないプレーを持ち味に」

出場から5分後には、緩急あるドリブルでドドをかわしてシュートを放ちチャンスを演出 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 TVカメラの前に立った本田にマイクを差し出した。ディレクターの合図とともに質問を切り出した。

――1−1の状況から途中出場して、そのまま引き分けに終わりました。試合の率直な感想を教えてください。

「勝てなくて残念でした。それに尽きます」

――開幕からセリエAで全試合先発だったのに、初めてベンチスタートになりました。インザーギ監督から何か説明はありましたか?

「特にそのへんの説明はなかったですけれど、この前の4試合で結果を出していなかったので。レギュラー落ちしたということに尽きる。僕自身、最近のパフォーマンスが低調だったということを受け入れないといけないと思っています。今日に関しても少ないチャンスをものにするべきだった。本当のスターというのは1本のシュートをすぐに決めることができるんじゃないかなと思うので、また反省しないといけないですね」

――ただ、ドリブルからのシュートシーンは持ち味が出たのでは?

「まあ、(ドリブルは)持ち味じゃないんですけど(笑)。あれを持ち味にしたい、というのが今の試みなので。やはりあそこのパワフルさ、質、回数を高めていかないといけない。高めて結果を出さないと、このクラブではレギュラーで居続けることはできないので、危機感は常に持っています」

 個人的に最も印象に残ったのは、この「持ち味じゃないんですけど、あれを持ち味にしたい、というのが今の試み」というコメントだった。学生に例えると“苦手科目を得意科目にする”という感じだろうか。これが、ブラジルワールドカップ直後に本田が表明した“新しいものさし作り”である。

今自分が求めるプレー

 プレーの熱がまだ体の中にこもっているのだろう。大粒の汗が本田の額から滴り落ちた。

――長友選手とのマッチアップはどうでしたか?

「本当であれば、両方がスタメンで出たかったんですけれど。それでも日本のサッカーファンは盛り上がってくれたんじゃないでしょうか。盛り上がってくれたなら、サッカー選手としてうれしいことですし、次はスタメンで出られるようにしっかり準備したいです」

――フリーキックの流れで左サイドに残り、長友選手から少し離れたところでドリブルを仕掛けるシーンもありました。

「時間帯を考えて、試合に出るときから『アグレッシブに仕掛けないといけない』と決めていました。左サイドであれ、右サイドであれ、果敢に仕掛けていけたので、それは楽しくできたと思います」

――年内は残り4試合となりました。どんなイメージで臨みますか?

「やはりまず試合に出ないといけないということですよね。しっかり練習から結果を出して、スタメンで出続ける。出れば必ず試合の勝利に貢献する活躍をし続ける。それに尽きると思っています。特に自分のポジションは前ですから。守備で貢献するのは当たり前の話で、やはり攻撃で数字を出さないと。もっともっと技術的にアップしないといけないと思っています」

――開幕から6点を決めましたが、ここ5試合ゴールがありません。現状をどう考えていますか?

「これが実力ですよね。最初は警戒されていなかったが、警戒されるようになり、左足をどう封じたらいいのかを研究されたことによって結果を出せなくなった。現実を受け入れる必要があります。ただ、それを上回っていかないと自分が求めていることころには到達できない。そのためにはこういう失敗を繰り返してでも、トライし続けることが何よりも大事なんじゃないかなと思います。違う(プレースタイルの)選択肢を選ぶこともできるんですけれど、今はそれを求めていない。今はもう少し先のビジョンを描いているつもりです」

 本田が言うように、開幕から得点を量産したことで、マッチアップするサイドバックの選手が、常に本田を視界に収めるようになってきた。味方がボールを持った瞬間に裏を狙って走り出しても、もはや簡単にはフリーにさせてくれない。相手に的を絞らせないように、より多くの引き出しが必要だ。まさにドリブルはそのひとつになりえる。

「違う(プレースタイルの)選択肢を選ぶこともできるんですけど、今はそれを求めていない」

 この一言に、本田の意地と頑固さ、そして遊び心が凝縮されていた。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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