モノ言うダル、米球界での“発言力”確立 実力認めさせたからこそ、声を上げる

内野ムネハル

メジャー3年目、トップクラスの地位固める

オールスター前日、ダルビッシュは先発ローテーション制に疑問を呈した。発言は米メディアに取り上げられ、議論に発展した 【Getty Images】

「一点の曇りもない羊の群れの一員であるためには、まずは何よりも羊でなければならない」

 この言葉は、相対性理論を創始した20世紀の物理学者、アルベルト・アインシュタインが残したものだ。そして2012年4月、メジャーリーグ初登板を目前に控えたダルビッシュ有が「メジャーに来るにあたって1番ためになった言葉」とツイッターで紹介した言葉でもある。

“一点の曇りもない羊の群れの一員”を目指し、海を渡ったダルビッシュのメジャー3年目は、おそらく本人にとって不本意なシーズンだった。

 今年は8月中旬に右肘の炎症で故障者リスト入りし、その後は登板なし。メジャー3年目にして初めて、日本時代も含めるとプロ1年目の05年以来、10年ぶりに規定投球回に到達できなかった。チームも故障者が続出し、リーグ最低勝率に沈んだ。

 故障に苦しんだ一方で、マウンドに上がれば質の高いピッチングを続けた。ルーキーイヤーから3年連続の2ケタ勝利、オールスター選出。昨年に続くハイレベルなパフォーマンスで、メジャートップクラスのスターターとしての地位を固めた。

 故障や調子の波はありながらも、メジャーで3年間結果を残し続けてきたことによって、ダルビッシュが少しずつ確立してきたものがある。米球界における“発言力”だ。

“提言”が“議論”に発展する条件

 7月のオールスターゲーム前日に開催された、出場全選手によるメディアセッション。全米のメディアが一同に介す、年に一度の晴れ舞台で、ダルビッシュは米球界の常識に一石を投じた。近年、トミー・ジョン手術を受ける若手投手が続出している問題を受けて、現行の中4日での先発ローテーション制に疑問を呈したのだ。

 ダルビッシュの提言は、かなり具体的だった。

「球数は(故障と)ほとんど関係ない。120球、140球投げても、中6日あれば靱帯(じんたい)の炎症も全部クリーンに取れる」
「ロースター枠を拡大するのがいいと思います。投手ひとりひとりの年俸は下がりますけど、選手を守るのであればもう1枠増やして中5日か中6日で回した方が、もっと楽にやれると思います」

 日本球界では現役選手が球界に物申すのは御法度とされているような風潮があるが、メジャーでは選手もどんどん発言するカルチャーがある。例えば、12年にサイ・ヤング賞を受賞したタイガースのデービッド・プライス(当時レイズ)は今年5月、ワシントン州の高校生投手が1試合で194球を投げたというニュースを受けて「指導者をクビにすべきだ」とツイッターで発言し波紋を呼んだ。

 メジャーでは、実力を認められたスター選手たちに「影響力の大きさを考慮して発言を控えよう」といった遠慮はない。むしろ状況を変え得る発言力を持つ立場だからこそ、球界の発展のために声を上げることもある。

 ダルビッシュも、そうした発言力ある選手の一人になりつつある。オールスターでのダルビッシュの提言は、『FOXスポーツ』や『ニューヨーク・タイムズ』など大手米メディアにこぞって取り上げられた。発言をただ紹介して終わりではなく、提言内容の妥当性を掘り下げて考察、批評する記事も少なくなかった。3年連続でオールスターに選ばれ、かつ日米球界の両方を経験しているダルビッシュの発言だからこそ、“提言”が“議論”に発展したのだろう。

“実力”とは成功を再現、継続する力

 例えば、今年メジャーでルーキーシーズンを戦った田中将大が、仮にダルビッシュと全く同じ意見を持っていたとして、全く同じ言葉を口にしていたらどうだったか。あるいは、ダルビッシュが2年前に同じことを話していたら?

 おそらく、周囲の反応は違った。今年の田中や2年前のダルビッシュは、まだメジャーで実力を証明できていなかったからだ。

 ダルビッシュは昨オフ、日本のテレビ番組に出演した際にこんな話をしていた。

「メジャーリーグ・サービスタイムというのがあって、それが選手の地位を決める」
「僕は(メジャー在籍期間が)2年だけど、5年以上経つと偉そうにできる」
「3年目くらいまでは子どもとしかみなされない」

 メジャーには、日本的な年齢による上下関係はあまりない一方で、明確な実力主義があるように感じる。実力が認められた者ほどリスペクトされ、発言力を持つという文化だ。

 ここで重要なのは“実力”の定義である。

 メジャーリーグという世界において“実力”とはおそらく、成功を再現、継続する力である。1シーズンの飛び抜けた活躍ではなく、最低でも数年間、安定した成績を残し続けること。だからダルビッシュが言うように、メジャーリーグ・サービスタイムが重要なのだろう。

 田中やダルビッシュは、日本で長期に渡り輝かしい実績を残してきた。しかし、ダルビッシュは先述のテレビ出演でこうも語っていた。

「向こうの人はナメてるんで。日本だろ?って」
「日本で7年か8年、こんだけイニング投げてるって言っても『だから何だよ』って」

 日本球界での実績は関係ないのだ。

1/2ページ

著者プロフィール

1986年生まれ。2012年よりメジャーリーグを中心に取材し、各種媒体にコラムやエッセイを寄稿。今年3月より『ダ・ヴィンチNEWS』にて、東京のカープファンを題材にした連載小説「鯉心(こいごころ)」(http://ddnavi.com/news/232480/)を執筆中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント