本田が担うチームにとって“重要な役割” 自らのクオリティーを犠牲にしたプレー

片野道郎

サンプドリア戦でもゴールに貢献

ここ数試合“プラスアルファ”の貢献ができていない本田だが、担う負担と仕事量は大きい 【Getty Images】

 自らのクオリティーを犠牲にしてチームに貢献するという点では、コンスタントな守備参加もそのひとつ。相手ボールの時には自陣に戻り、やや内に絞って最終ラインから前線への縦パスのコースを切るポジションを取りつつ、マッチアップの関係にある左SBメスバの攻め上がりをチェックするという仕事をサボらずにこなし、攻守のバランスを保証していた。ここでも、前線の他の2人と比較して、担っている負担と仕事量は大きい。

 もちろん、味方がボールを奪えば、そこから一気に前線に走って攻撃に絡もうとする。象徴的なのは、ミランでここまで挙げた6得点のうち、FKからのゴールを除く5得点は、カウンターアタックに絡んでフィニッシュを担ったものだという事実だ。

 この試合でカウンターアタックに直接絡んだ場面は、前述した32分のプレーだけだった。しかし、前半10分にエル・シャーラウィが先制ゴールを決めた場面では、ドリブルで持ち上がったエル・シャーラウィを後ろからサポートし、外を回ってオーバーラップする動きでマーカーの右SBロレンツォ・デ・シルヴェストリを引き剥がしている。このオーバーラップがなければ、エル・シャーラウィが内に切れ込んでファーポスト際にシュートを打つスペースは生まれなかったはずだ。直接ボールには絡まなかったが、この美しい先制ゴールに本田が大きな貢献を果たしたことは間違いない。

 もうひとつ、本田がチームの中で果たしている大きな役割は、プレースキッカーとしてのそれだ。今シーズン、CK、そして中距離までのFKはほとんど本田が蹴っている。今のミランに本田を上回るプレースキックの持ち主はおらず、その点でもチームにとっては欠かせない存在だ。

 ゴールやアシストといった目に見える形での活躍、チームへの貢献という点に関しては、フィオレンティーナ戦以降このサンプドリア戦も含めた4試合、具体的な成果が出ていないことは確かだ。しかし、ここまで見てきた通り、ミランというチームのメカニズムにおいて、本田に求められているのは決してそれだけではない。繰り返しになるが、それはあくまで“プラスアルファ”であり、だからこそインザーギ監督は本田をスタメン起用し続けているのだと思う。

 もちろん、ミランにとっても本田にとっても、一番欲しいのがその“プラスアルファ”であることは間違いない。しかし、この数試合それが出ていないのは、本田自身のプレー以上に、ミランというチームそのものが抱える、現時点における限界が原因であるようにも思われる。

本田の責任以上に周りの問題も

 最も象徴的なのは、このサンプドリア戦も含め、ミランが危険な状況を作り出すのはカウンターアタックからに限られており、ビルドアップから相手守備陣を崩す場面はまったく見られないという事実だ。本田もその中で模索を続けているように見える。

 最終ラインから攻撃を組み立てる場面で、本田は多くの場合、サイドに開くよりも中に入り込んで、敵の2ライン(中盤とDF)の間でフリーになってパスを引き出そうとする動きを見せる。問題は、そうやってマークを外してもタイミング良く縦パスが入ってくるケースは皆無に近いということ。これは、先に触れたように、ミランの最終ラインと中盤に質の高いパスを出せるプレーヤーが欠けていることが唯一最大の理由だ。中盤の底に位置するナイジェル・デ・ヨングも、この日右インサイドハーフに入ったマイケル・エッシェンも、フリーになった本田に20メートルの縦パスを通すリスクを冒すよりも、近くにいるMFやSBに難易度の低いパスを出す方を選ぶ。本田に縦パスを送る時もタイミングが遅く、本田がボールをトラップした時にはすでにマークされてプレッシャーを受けている状況になってしまう。ここから前を向けないのは、本田の責任と同等かそれ以上にパスの出し手の責任だろう。

 またこの日は、左インサイドハーフに攻撃的な性格の強いボナヴェントゥーラが起用された関係で、右には守備的なエッシェンが起用され、そのエッシェンが攻守のバランスを取る意識から、ボールのラインより後ろにとどまって攻撃に絡まなかったことも、本田にとっては不利に働いた。チーム全体として、ボナヴェントゥーラ、そしてエル・シャーラウィがいる左サイドを使おうという意識が強くなり(センターFWのメネスも左に流れがちになった)、攻撃が左に偏って本田はやや孤立する形になってしまったのだ。

 左サイドで攻撃を展開している時、本田は積極的に中央に入り込んでフィニッシュに絡もうとする。しかし、本田がタイミング良く寄って行っても、メネスやボナヴェントゥーラがドリブルでこねくりまわして、パスを出してもらえずに終わる場面が一度ならずあった。エル・シャーラウィ、メネスはともに、周囲との連係を生かすというよりも単独で仕掛けて局面を打開しようとする傾向が強いプレーヤー。それが決まれば決定的な違いを作り出すことができるが、無駄が多くなることも避けられない。彼らと比べれば本田は連係によって局面を打開しようとする意識がずっと強く(またそれを得意としてもいる)、ピッチ上でもそれを狙った動きを見せているのだが、現時点ではまだそれがチームの中でうまく機能していないという印象だ。そしてそれもやはり、本田の責任という以上に周りの問題だという気がしてしまうのは、ひいき目に過ぎるだろうか。

 インザーギ監督はこの試合の前日会見で、「本田は月曜日に『もっとチームに貢献するためには何をすればいいか』と聞きに来た」と語っていた。この試合でその答えが出たとは言えない。しかし指揮官と本田がそういう問題意識を共有していることは、ミランの今後にとって明るい材料であることは間違いない。インザーギは試合後の会見でも、「このチームはまだ構築中。波があるのは仕方がない」とコメントしている。“プラスアルファ”こそなかったが、本田はそのチームにとって不可欠な存在として、重要な役割を担い続けている。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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