佐藤寿人がゴールを量産し続けられる理由 前人未到の11年連続二桁得点達成

原田大輔

佐藤が選ぶ今季のベストゴール

佐藤にとってのベストゴールは、華麗なゴールではなく、相手との駆け引きや早い動き出しによって生まれたゴールだ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 11シーズン連続の二桁得点を達成した彼に、自身が選ぶ今シーズンのベストゴールを聞いてみた。今シーズンと言えば、J1第2節(3月8日)、川崎フロンターレ戦の57分に決めたトラップでボールを浮かし、反転してからの華麗なるボレーシュートを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、本人が選ぶのは、やはり相手との駆け引きや早い動き出しによって生まれたゴールになる。

「川崎戦のゴールは正直、自分でもスーパーすぎるので自分らしくないなって思うんですよね。だから(第6節・4月6日の)アウェーの名古屋戦で洋次郎からのパスをプルアウェイして引き出して決めたゴールか、(第15節・7月19日の)大宮戦で決めたヘディングでのゴールですかね」

 そして、佐藤が得点を決め続けることができる最大の要因はストライカーへの強いこだわりだろう。若いころ、他のポジションでのプレーを求められ、「FWでないならば試合に出たくないと思った」というエピソードはあまりにも有名だが、彼はストライカーというポジションに固執し、ゴールという結果、数字、そして記録にもこだわってきた。

 あれはヤマザキナビスコカップ決勝の舞台となる埼玉スタジアムでのことだった。浦和レッズとのナビスコカップ準々決勝第2戦を戦い終えた佐藤寿人はミックスゾーンに現れると、筆者に歩み寄りこう言った。

「今日のゴールでナビスコカップ歴代最多得点記録に、あと2点に迫ったんですよ」

 ホームで戦った準々決勝第1戦(9月3日)を0−0で引き分けていた広島は、アウェーの第2戦(9月7日)でも2−2と引き分け、アウェーゴールの差により準決勝への切符を手にした。実質、決勝点となったのは後半3分に佐藤が挙げたゴールだった。恥ずかしながら大会通算最多得点など気にしていなかった私は、思わず「数えたの?」と聞き返してしまった。

 本人は「この間、数えたんですよ」と笑う。実にゴールという目に見える記録にこだわり続けるストライカーらしいエピソードだとも思った。

 そしてナビスコカップ準決勝ではチームを決勝へと導く2ゴールを挙げ、大会通算得点記録に並んだ。11月8日(土)に行われる決勝でゴールを決めれば、新たなる記録が生まれる。

「決勝の舞台でゴールを決めて単独トップになり、それが優勝につながれば、FWとしては最高ですよね。ストライカー冥利(みょうり)に尽きると思います」

連覇を果たしても消えないナビスコカップの悔しさ

決勝ではナビスコカップの通算最多得点記録も懸かっている。佐藤は記録を達成し、4年前の雪辱を果たすことができるか 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 ナビスコカップ決勝には苦い記憶がある。4年前の10年、まだ無冠だった広島は、初めてナビスコカップ決勝の舞台に立ったが、2−1でリードしていた後半アディショナルタイムに追いつかれると、延長戦でジュビロ磐田に逆転負けを喫した。負傷により戦線を離脱していた佐藤は、決勝でベンチ入りこそ果たしたが、ピッチに立つことはかなわず、アディショナルタイムでの同点弾に落胆するチームメートをもう一度、奮い立たせることができなかった。

「4年前、決勝のピッチに立てず、ほぼ優勝をつかみかけていた中で、取り損ねてしまったので悔しさはある。あれから4年経ちますけど、ナビスコカップの思い出を聞かれると、10年のことがすぐに思い起こされる。J1で優勝しようが、連覇しようが、その悔しさは拭い去ることはできない。ナビスコカップの悔しさはナビスコカップでしか消せない。今回、優勝することで、その悔しい記憶を塗り替えることができると思う」

 4年前は決勝のピッチに立つことができなかった。その原因となるけがは今回の決勝の相手でもあるガンバ大阪とのナビスコカップ準々決勝第2戦で負ったものだった。そして決勝では大会通算最多得点記録が懸かっている。さらに舞台は、彼が生まれた埼玉県にある埼玉スタジアムだ。

 ナビスコカップ決勝は、まるで佐藤寿人というストライカーのために用意された舞台のようでもある。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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