クラシコで描かれた2強の対照的な姿 最先端のレアルが原点回帰のバルサに勝利

北川紳也(フットメディア)

及第点のプレーを披露したスアレス

この日がデビュー戦となったスアレスは、ネイマールのゴールをおぜん立てするなど及第点のプレーを披露した 【Getty Images】

 一方、リーガの開幕無失点記録、そしてリオネル・メッシによるリーガ歴代最多得点記録、それぞれの更新が未達成に終わったバルセロナに突き付けられた課題は大きく、そして重い。

 試合前のルイス・スアレスの先発出場の知らせは、この日、世界中で試合を見ていたとされる、4億人あまりのファンの期待感を大いに煽ったに違いない。ところが、その期待感は試合が進むにつれて、しぼんでいった。それはスアレスのプレーが悪かったからではない。むしろ、悪くはなかったという見方が多勢を占めている。

 実際、ネイマールの先制点は、右サイドにいたスアレスからのサイドチェンジが起点となっている。また23分には、メッシへ鋭いクロスを送り、あわや2点目となるシーンを演出。その他にも、チームメイトとの連係を意識したプレーが見られ、4カ月間の出場停止明け、及びバルセロナデビューということを全く感じさせないプレーを披露した。

 そんなスアレスに対する評価について、バルセロナ寄りスポーツ紙『スポルト』は、5点を付け、「プレーに関与する姿勢を見せた。何度か相手の最終ラインの裏を突いたが、大きな問題となり得なかった。プレッシングへ協力する姿勢も見せたが、レアル・マドリーのボール回しにうまくかわされた」と寸評。レアル・マドリー寄りのスポーツ紙『マルカ』も、5点を付けて、「可もなく不可もなく」とした。

アイデンティティーが揺らぐバルサ

 むしろ、この試合で大きな焦点となったのは、バルセロナのクラブとしてのアイデンティティーの揺らぎである。全国紙『エル・パイース』のバルサ担当である、ラモン・ベサ記者は、この試合のバルセロナについて、「レアル・マドリーの悪いコピー」という見出しを打ち、その意図を次のように説明している。

「レアル・マドリーは、スポーツ面において、バルセロナよりずっと盤石なチームである。彼らには明確なプランがあり、それを実行するだけの十分な戦力がある。一方バルセロナは、中盤を生かしたフットボールが見られず、攻撃力は半減し、守備でも混乱が生じている。そして、メディア受けするようなコメントを発して、ネイマール、メッシ、スアレスを起用し、変化を楽しんでいる。ルイス・エンリケは、この試合での課題を修正すべく手を加えるだろうが、それには、かつてのレアル・マドリーにあったような多くの混乱を生じさせ、アイデンティティーを喪失するリスクが伴うだろう。レアル・マドリーが、かつてのバルセロナのような栄華を極めるかは分からない。ただし、この日のバルセロナはレアル・マドリーの悪いコピーだった」

 ジョゼップ・グアルディオラ時代に一度は完成した“バルサのフットボール”への対抗策として、ルイス・エンリケ監督は就任時に、「オプションを増やすこと」をひとつの指針とした。それが、カンテラーノの抜てきであり、ウイングのポジションを中央寄りに配置することだった。また、ハビエル・マスチェラーノを本職のピボーテで起用するテストもこなしてきた。

 しかし、このクラシコでは、スアレスこそ抜てきしたものの、中盤ではセルヒオ・ブスケッツ、シャビ、アンドレス・イニエスタの見慣れた顔をそろえて、今季トライしてきたものを披露できなかった。むしろ、前後分断によるフットボール、脆弱な守備というこれまでの悪いイメージを残した。“ポゼッションとハイプレス”の回帰を目指すチームだが、その方針があらぬ方へ進んでないか、そうラモン・ベサ記者は指摘している。

 今季彼らが戦った公式戦12試合のうち、敗れたのは今回のクラシコとCLでのパリ・サンジェルマン戦の2試合。ここまでで唯一の“ビッグマッチ”2試合で、その他の試合とは全く異なる姿を披露して敗れていることに、チームとしての“ひ弱さ”を指摘する声もある。

 クラブのアイデンティティーを取り戻すという作業は、今後も続くだろう。ただし、それがチームの進化へと直結するものなのか。そもそもバルセロナのアイデンティティーを確立したグアルディオラが今、ドイツで次々と新しいことにチャレンジしているのを見ると、“原点回帰”という方向性が果たして正しいのか一抹の不安を感じざるを得ない。

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著者プロフィール

1984年生まれ、徳島県生まれ。マニュアル制作会社に勤めた後、2011年夏からフットメディアに所属。J SPORTSのプレミアリーグ中継や『Daily Soccer News Foot!』などに関わり、ライター・翻訳をメインに活動する。学生時代にはバルセロナへ1年間留学。ルームメイトがアルゼンチン人だったこともあり、南米コミュニティーのなかでフットボールのイロハを学べたことが今の財産。

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