ラグビー日本代表・大野均の「自尊心」 歴代最多出場者が見つめるもの

向風見也

「エディーさんをがっかりさせたくない」

東芝でも体を張ったプレーでチームを引っ張っている 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 集団のなかでの自分の立ち位置を客観視し、目指すべき将来像を限定して突き進む。見方によっては、下手に「器用さ」を強調する人よりもよほど器用で賢いのだ。

「まずは、選んでもらったエディーさんをがっかりさせたくない。ベテラン風を吹かすんじゃなく、若手にも負けん気を出していきたいです」

 現体制下初の代表招集となった12年春、かようなアスリートとしての態度を表明していた。「ラグビーをしていて良かったと思う瞬間」を問われた折も即答した。ささやかなナルシシズムの発露!

「スタンドの下からグラウンドに出る時に、お客さんからの歓声をわーっと浴びる時ですかね」

 奥ゆかしくて豪快。愚直なようで賢い。謙虚かつ相応の自己顕示欲もある。大野は、相反する要素をほどよく混ぜ合わせている。

帝京大・小瀧尚弘との縁

残っている観客が少なくなっても、時間の許す限りファンサービスを行う 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 厳しい立場にある。日本代表ではサントリーの主将である真壁伸弥らとロックの定位置を争い、東芝でも常時フル出場とはいかず、控えにまわることもある。いまの東芝で采配を振るう、冨岡HCの所見は。

「もちろん、年を取ったら無尽蔵でずっとフル出場、とはいかなくなる。一番怖いのは、怪我とかでいなくなること。リスクマネジメントも込めて、です」 

 東芝のロック陣では、福工大出身の27歳である梶川喬介がレギュラーに定着。早大卒で25歳の中田英里も好調を維持している。

 さらに来季は、この並びに小瀧尚弘が加わる。大学選手権5連覇中である帝京大の4年で、14年春には初の日本代表入りも果たした巨漢だ。ちなみに小瀧は、大野の言葉に救われたことがある。17歳以下日本代表の活動中に自信を失いかけた鹿児島実高2年時、ともに食事をした折に「続けた方がいい」と言われて現在に至る。

失いかける経験を通して太くした、自尊心の幹

 最多キャップ保持者はこの先、縁の深い新人ら多くの若者と競い合うこととなる。
 もっともこうした状況は、本人にとっては望むところでもあろう。

 ジョン・カーワン前HC体制下のジャパンでも、長く控えに甘んじた。「俺、次はもう呼ばれないよ」とこぼした折もあるが、最後は「逆に、『なぜ大野が出られないんだ』と皆に思われるよう存在感を出さなきゃ」。失いかける経験を通して太くした、自尊心の幹。これを携え、「若手にも負けん気を出して……」と発しているのだ。

 囲み取材で「いろんな引退した先輩方に聞くんですが、プレーヤーでいるうちが華だぞと言われる」と語り、ファンからさらなる現役生活続行を請われれば「クビになるまで、やります」。加えて……。
「2人、子どもがいるのですけど、少しでも長く現役でプレーするところを見せたいなと感じます」。4年に1度のワールドカップまであと1年弱。1つの練習、1つの試合、1つの接点に全力で挑む。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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