実り多き男子バレーのアジア大会準優勝 発展途上のチームに必要なさらなる進化

田中夕子

若手が躍動した準々決勝のインド戦

準々決勝のインド戦では石川(右)の活躍が光った 【坂本清】

 変化が形になって表れた、その最たる試合がアジア大会の準々決勝のインド戦だった。
 手堅い守備とミドル、サイドを絡めた攻撃を誇るインドに対し、前半から日本は大苦戦を強いられる。第1セットを落とし、第2セットも競り合いが続く中、まず最初に流れを引き寄せたのが17−15の場面でピンチサーバーで投入された柳田将洋(慶応大)だ。

「アップゾーンでも、出たくて出たくてウズウズしていました。できることなら自分も打ちたいし、もっと試合に出たいと思うけど、今の役割はピンチサーバーとして流れを引き寄せること。それだけを意識して、思いっきり打ちました」

 1本目はサービスエース、2本目も相手の守備を崩すサーブでチームに勢いをもたらす。さらに終盤は、柳田のサーブが「刺激になった」と言う石川がピンチサーバーとして入り、21−17からサービスエースで続く。さらに第3セットを失い1−2と劣勢になってからも、米山に代わって入った石川が攻守に渡る活躍で勝利をもたらす原動力に。実際に南部監督も柳田、石川に加え、スタメンで出場し続けブロック、スパイクで日増しに存在感を発揮している山内昌大(愛知学院大)を含めた大学生3人を「彼らのおかげで勝利した」と称賛した。

収穫は多かったが、イランとの差も痛感

収穫は多かったが、イランとの差は小さくない。南部監督(左)は今後どう強化していくのか 【坂本清】

 これまでの4年、アジアでトップ3になることもできなかった現状を踏まえれば、インド、中国、韓国に勝利して決勝まで進出したこと。ましてや発足したばかりのチームで、成長と経験を重ねながらここまでたどり着いたことは事実であり、越川が「このチームでここまで勝ち進めたこと、今のイランと戦えたことが財産」と言うように、確かに、収穫の多い大会であったことは間違いない。

 しかし敗れた決勝、イラン戦では他の相手では決まっていたスパイクも拾われる、ブロックで触れたボールも触れることすらできずに上から打たれる場面も何度もあった。どのポジションからも攻撃を展開する力もさることながら、チャンスボールの処理や、サーブの正確性、ブロックとレシーブ、しっかり構築されたフロアディフェンスから攻撃に転ずるスピードと決定力。イランと日本の差は数えきれないほどにあり、残念ながら決して小さなものではない。

 若手が活躍して、何かが変わりつつある。若手が成長している発展途上のチームが、ここまでよく戦った。そう言えば聞こえはいいが、代表チームは若手を育成する場ではない。世界と戦う場所だ。1人1人が今大会で直面した課題や、イランを通して見えた世界との差をどう感じ、どう捉え、どんなふうに変わっていくのか。

 石川は言った。

「最年少とか、そういうのは関係ない。自分自身もサーブレシーブで課題が多く残ったし、日々の練習でどれだけ意識を高く持ってできるか。世界に行っても、まったく戦えないわけじゃないと思います」

 4年前、新たな指揮官のもとでイランが世界の強豪へと劇的に変化したように、日本も劇的な変化を遂げることができるのか。

 新体制での1年目は終わった。リオへ向け、真価を問われるのはこれからだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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