鈴木武蔵が持つ独特の成長力に期待大 U−21日本代表で見せた進化の形跡

川端暁彦

驚くべき成長スピード

鈴木は高校卒業後にJ1新潟へ加入し、今季でプロ3年目を迎える 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 もっとも、昔から「ヘタクソ」と呼ばれることが多い選手でもある。

 高校1年生の冬に滑り込んだ群馬県トレセン(まさに滑り込んだ、という感じだったそうだが)でのプレーが関係者の目に留まり、上部トレセンを飛び越えてU−16日本代表に大抜てきを受けたときも、周囲から向けられていたのは「何でアイツが……?」という懐疑の視線だった。練習を見ていても各地の精鋭が集う代表選手たちの中では明らかにヘタクソなのだが、ゴールへ向かう姿勢としなやかな動きは群を抜く魅力があった。思えば、「仲間のために頑張れる」という資質も、このころから見せていたように思う。

 U−21日本代表の練習を見ていても、鈴木は決して「うまい」部類ではない。シュート練習でも、驚きの弾丸シュートをたたき込むこともあるが、とんでもない外し方をすることも少なくない。それでも、ポゼッション練習などを見ていると、かつてに比べて格段に「うまくなっている」こともよく分かる。積み上げてきた努力と、生来の吸収力の高さを感じさせる進化である。今大会は苦手だったポストプレーにも、ヘディングにも進化の形跡を感じることができた。この成長力もまた、重要な個性だ。

 高校3年生の時に鈴木が練習参加したあるJクラブは、まさに「ヘタクソ」であると見なし、その可能性を否定した。彼が見せていた「進化」を感じることができず、ただその日の練習だけを見ていた人には「伸びしろ」が見えなかったのだと思う。現在の日本代表選手にもこの手の「才能を評価されなかった」エピソードが付きもので、育成年代で選手を評価する難しさは、まさに「伸びしろ」が見えるか見えないかの一点に尽きる。その意味で、鈴木の可能性を買った新潟のスカウトは、まさにけい眼だった。

秘める大きな可能性

ゴールを決め、父の母国ジャマイカの英雄ウサイン・ボルトのパフォーマンスを見せた鈴木 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 練習といえば、U−21日本代表で恒例となっている体幹トレーニングでの鈴木の安定感は群を抜いている。例えば、体を横向きにして片手で立って静止するような“プルプル系”のトレーニングをやると、多くの選手は体をゆらゆらと揺らしてしまうか、プルプルと震えてしまうのだが、鈴木はピタリと静止できている。やはり身体的な資質はスペシャルだ。そんな選手が仲間のために献身的で、努力を惜しむことなく成長しているのだから、そこに大きな可能性を見出すことは、そんなに突飛なことではあるまい。

「Jリーグで試合に出るようになったせいか、ゴール前に行くときの迫力が増してきたな」。手倉森監督は鈴木の成長について目を細める。センターFWについては海外組のFW久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)もおり、下の世代からの抜てきもあるだろう。まだ鈴木が柱になると決まったわけではない。それに何より、新潟でのレギュラーポジションを確固たるものにするための競争に打ち勝っていく必要がある。

「高校時代に一度だけ撮ったときも思ったけれど、武蔵は優しすぎるのかもしれないな」。冒頭に登場してもらった六川氏は、そんなことも言っていた。仲間のためにスペースを作り、つぶれ役になることをいとわないことは素晴らしい資質だが、一方でゴールに対してどこまでエゴイストになれるかが問われる瞬間も、ストライカーにはある。仲間のために戦う姿勢を崩さず、なおかつゴールをどん欲に奪い取る姿勢をより強めていけるかどうか。鈴木武蔵が持つ独特の「成長力」に期待したい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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