鈴木武蔵が持つ独特の成長力に期待大 U−21日本代表で見せた進化の形跡

川端暁彦

辛口ベテランカメラマンが大絶賛

U−21日本代表としてアジア大会に臨んだ鈴木 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 韓国が北朝鮮を破って28年ぶりの金メダルを獲得した10月3日、その取材を前にした筆者は大ベテランカメラマンの六川則夫氏と昼食を共にしていた。席上、六川氏は「今回のU−21日本代表は見ていて面白いやつが多い」とした上で、「それにしても武蔵だな。鈴木武蔵! テレビで見たのとはえらい違いだ」と語り始めた。

「オフ・ザ・ボールであんなに動きまくっている選手だとは思っていなかった。本当に頑張る。絶妙の動き出しをしたのにパスが出てこないと走るのをやめちまう選手が多いけれど、あいつはそれもない。何度でも動き直している。あんなの岡崎慎司くらいのものだと思っていたが、違ったな。武蔵がいた」

 カメラマンの視点というのは独特だ。観客の視点からは遠く、戦況を俯瞰して見る記者の視点とも明らかに違う。GKの視点に近いものがある。オフ・ザ・ボールの動きは、そのまま「ボールを持っていないときの動き」のこと。パスを引き出す動きであり、相手DFを釣る動きのことだ。FWのオフ・ザ・ボールの動きはテレビ画面だと、画面の外側にある時間帯が長く、なかなか視聴者には伝わらない。俯瞰して見ている人でも、視野の端で行われている攻防は、注意を払わないと気付けないものだ。ただ、カメラマンは違う。まさに目の前で行われている駆け引きは、「GK視点」における一つの見どころですらある。

「試合によっては、日本代表が弱かった時代にトップをやった手塚聡みたいなもんだった。まるで生きたボールが来ないんだけれど、それでも体を張って戦い続けなければいけない。でも、それを武蔵はやっていたよ。韓国戦でも本当に戦っていた。あれだけ当たられて、削られて、しかもろくなパスが出て来ないっていうのに走るのをやめないし、体も張れていた。あれは大したもんだ」

 選手の個人評については総じて辛口な六川氏の口から、これだけ褒め言葉が並ぶことに驚いたが、今大会を通じて鈴木武蔵(アルビレックス新潟)という選手の評価を改めたという人は実際に複数いた。

注目は献身的なプレー

鈴木の持ち味は仲間のために走る献身性。アジア大会でも、最前線からボールを追いかける姿が多く見られた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ジャマイカ人の父を持ち、抜群のスピードでピッチを疾駆する様から連想されるのは、「生まれ持った能力頼みの選手」という安直な評価だろう。確かにその一面はあるのだが、手堅い用兵家である手倉森誠監督は「生まれ持った能力だけ」の選手に期待を注ぐようなタイプではない。もっと違う魅力があるからこそ、だ。

「武蔵はいつも良い動きをしてくれている。DFから離れていくプルアウェイの動き(編注:ゴール前にいるFWがあえてゴールから遠ざかりディフェンスのマークを外す動き)であったり、ダイアゴナルという相手を斜めに横切る動きを繰り返してくれている」と語っていたのは、MF矢島慎也(浦和レッズ)。単に速いだけでなく、単に強健な体を持っているというだけでなく、無駄走りをいとわぬ献身性があり、それを繰り返すこともできる。

「仲間のために走る姿勢」。それこそが鈴木の持つスピード以外の隠れた、そして極めて日本人らしい大切な資質だ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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