安堵と笑顔で1年目を総括した田中将大 来季、最高の結果への序章となるか?
安堵感と安らぎを見せた総括会見
シーズン総括の会見で笑顔を見せる田中。オフへ向けた笑顔と来季への思いなどを語った 【写真は共同】
まるでジェットコースターに乗っているような1年を終え、今後はゆっくりと休むことができる。この日は普段以上に笑顔で、残す言葉にも抑揚が多く感じられたのは気のせいではなかったはずだ。
「今年はいろいろ経験させていただいたので、財産にはなっていると思います。それをうまく活用しなければいけない。(経験したことが)本当に自分にとって価値のあるものだと示すためには、やはり来年以降、自分がそれを姿として出さなければいけない。これからですね、価値が出てくるのは」
ヤンキースから7年1億1550万ドル(約161億円)という途方もない契約を受け取り、全米レベルの注目度で臨んだメジャー1年目。開幕6連勝、サイ・ヤング賞候補に浮上、右肘の故障発覚、リハビリの日々、そしてシーズン終盤の復帰……。20試合に先発して13勝5敗、防御率2.77という数字が示す以上に、目まぐるしくチャプターが変わる野球映画のような凝縮された日々を過ごしてきた。そんなシーズンを見てきた方もつい忘れそうになるが、田中はまだ25歳の若者である。
マウンドと普段のギャップこそ最大の魅力
海外で暮らして約半年とは、一般的に母国を懐かしむ思いが特に募る時期。来季に向けての抱負を忘れずに語りつつも、オフへの思いを抑え切れていない。その笑顔と口調からは、重圧の激しかったであろうルーキーシーズンからの開放感が存分に感じられた。
思えばこのギャップが田中という投手の最大の魅力だったのかもしれない。人気アイドルの歌を登場曲で使用したり、ソーシャルメディアでコメントしたりといった若者らしさも残すが、マウンド上での姿は大人の成熟を感じさせた。筆者を含む日本時代の田中をよく知らない現地メディアを何よりも驚かせたのは、その適応能力と落ち着きぶりだった。
値千金の活躍を見せた前半戦
『ニューヨーク・デイリーニューズ』紙のロジャー・ルービン記者のそんなコメントにニューヨークの多くの記者は同意するのではないか。
毎回必ずしも支配的な投球をするわけではないが、ピンチでも崩れず、失点を最小限にするすべを見つけていく辛抱強い投手。そんな印象は、緊張感が途切れたかのように1回2/3で7失点(自責5)と乱れた今季最終登板(9月27日、ボストン)のレッドソックス戦まで変わらなかった。
「野手に点を取ってもらって勝ち星がついてくるので、(故障離脱前まで)12(勝)という数字はみなさんのおかげ。ピッチャーができるのは失点を少なく抑えて、チームが勝つ確率を上げるということ。勝ち星は自分の中では重要だとは思っていない。もちろん、ついてきた方が良いものではありますけど」
総括会見中のコメントが示す通り、田中自身もメジャーの先発投手として必要なものを1年目からしっかりと認識していた感がある。
個人の勝ち星よりも、1年を通じて可能な限り多くのクオリティースタート(6回以上を投げて自責点3以内)を稼ぐことで高く評価されるメジャーリーグ。好調でない日でも決まって長いイニングを投げ、ブルペンを休ませてくれる日本人右腕をジョー・ジラルディ監督が絶賛したのは1度や2度ではなかった。渡米当初は制球や調整に苦しむ日本人投手が多い中、ベテランのように試合を作り続けた今季前半戦の田中の活躍には、まさに千金の価値があったと言って良い。