アジアのレベルアップに貢献する日本 サッカー発展途上国を率いる指導者たち

平野貴也

育成のツケが回ってきているタイペイ

チャイニーズ・タイペイを率いる柳楽監督は育成の見直しに力を注ぐ 【Getty Images】

 一方、柳楽監督が率いるチャイニーズ・タイペイは、日本(0−3)と中国(0−4)に大敗しながらも決勝トーナメント進出を果たす健闘を見せた。柳楽監督は「ノリ(なでしこジャパンを率いる佐々木則夫監督の愛称)とは同期。試合後には良いチームになってきたと褒めてもらったけど、半分はお世辞かもしれない(笑)。今回は、日本、中国という対戦相手に恵まれた。強い国と真剣勝負ができる機会はあまりない。選手たちは、今のままではアジアで通用しないと分かったと思う。タイペイのサッカーを大きく変えたいが、簡単にはいかない。特に、育成をしっかりとやっていかないと、代表を強化しても破綻してしまう。今は、育成の(手間を惜しんだ)ツケが回ってきている状況だと思う。タイペイも育成から見直していけば変わると思っている。かなり昔には、タイペイもアジアのトップレベルだった。再び、常にアジアで優勝争いをできる位置まで上がっていきたい」と強豪復活を目標に掲げた。

 興味深いのは、チャイニーズ・タイペイの女子代表強化は、サッカー協会ではなく、政府主導だということだ。代表強化には最少でも5人のスタッフが必要と訴えた柳楽監督に与えられたスタッフは、当初、自身を含めて2人。後にもう1人が加わったが、それでも難しいところだ。そして、チャイニーズ・タイペイの教育部体育署が課した目標は、なんと今大会での銅メダル獲得だった。柳楽監督は「政府主導だから難しいというところもある。もっと人気を高めていかないと理解されない。勢力図が分かっていないのに、目標は3位だと言われた(笑)。今大会は見に来てくれたから、少しは僕が言っている育成強化の必要性を理解してくれると思う」と、バックアップ体制を整えなければならない苦労がある一面をのぞかせた。

アジアのレベルアップが日本の強化につながる

指導者の派遣は敵に塩を送る行為にも映るが、アジアのレベルを上げることが日本の強化につながる 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 アジアの他国と比較すると、なでしこジャパンを筆頭とするサッカー日本女子の環境整備がいかに進んでいるのかが分かる。国内リーグが存亡の危機にさらされる中、代表チームが五輪や世界大会でのアピールを続けてきただけでなく、その間に少しずつJFAやなでしこリーグが努力した成果が「世界一を狙い続ける日本」を実現している。

 一方、そのノウハウを自身で、あるいは国内の指導者仲間を通じて得た指導者たちが、現在はアジア各国に伝えている。なでしこジャパンにとっては、今大会は物足りない相手が多いというのが実情ではある。だが、近隣諸国の台頭によって、この大会を勝ち抜くことはもっと難しくなるかもしれない。それは一見、敵に塩を送る行為に映るが、アジアでチームを鍛えることができるようになれば、欧州や米国などの列強との戦いに勝って行くために役立つはずだ。

 そして、現在はJリーグが率先して行っている東南アジアとのサッカー交流のような取り組みも可能になるかもしれない。他国の女子代表を率いる2人の日本人指導者の苦笑いに、そんな将来を重ねてみたくなった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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