京大初のプロ誕生へ、田中英祐の決断 堅実な右腕を“地獄”に進ませた思い

週刊ベースボールONLINE

伸びしろは十分、“地獄”を見る決意は固まった

関西の大学球界で最も脚光を浴びている男こそ、この田中である。関西学生リーグでは毎試合、多くの報道陣が詰めかけ、試合後に囲まれるのも、当たり前の光景になった 【写真=佐藤真一】

 自らが先駆者となり、道を示すための決断。本来、そういった使命感に燃える資質を持っていたのか。今度は「いや」と首を傾げ、続けた。

「飛び込んだらプロの世界の方が刺激的でしょうけど、もちろんシビアな世界。ならば、安定したところでという現実的な考え方は十分ありました。もともとは堅実なタイプです」

 となると、こちらが想像するより、はるかに大きな決断だったのか、と。

「そうですよ。言ったあとは『やってもうたなあ』って感じでしたから」

 8月23日には阪神2軍とのプロ・アマ交流戦で先発し、プロの空気に触れた。結果は7回を投げ7安打、6失点(自責点5)。3回1死以降は無安打、4回以降では5つの三振も奪ったが、若手メンバー相手の結果には、周囲の見方も分かれたはず。本人も「通じるものと、通じないものの両方を感じることができました。1試合だけでは分からないですが……」。

 ただ、現時点の力以上に、この先伸びゆく魅力を存分に秘めていることは間違いない。「京大へ進んだときと今回、野球を辞めるタイミングは2回ありました。でも、もうしばらくは頑張ってみます」。そう決意を語った22歳。果たして、父にプロ志望を伝えると、「地獄を見てこい」と言われたという男の運命は、ここからどうつながっていくのだろう。

(取材・文:谷上史朗)

田中英祐

1992年4月2日生まれ。兵庫県高砂市出身。180センチ、75キロ。右投右打。米田西小4年時に塩市子ども会で野球を始める。白陵中から投手となり、白陵高では1年秋から主戦も3年間で公式戦1勝。2年夏に加古川北高相手に8回までリードするなど力の片りんを見せた。京都大では1年春から登板し、秋から主戦。昨秋は0勝4敗ながら、防御率1.06、立命大戦の延長21回が評価され、ベストナイン初受賞。今春は自己最多3勝をマークした。関西学生リーグ通算59試合、7勝29敗、防御率2.24(9月15日現在)。

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