メルセデスの接触騒動で考える“宿命”=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第32回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

ベルギーGPのスタート直後、ハミルトンとロズベルグが接触。ハミルトンは大きく後退することとなった 【LAT Photographic】

 久しぶりのエフワン見聞録ですが、F1も夏休みだったので大きな動きはなくてよかった……と思ったら、夏休み明けのベルギーGP(8月22日〜24日)でいろいろと動きがあったようですね。

 何がどう動いたのか? 話題はふたつ。ひとつはメルセデスAMGのルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグの接触にまつわるいろいろ。ふたつめはケータハムの小林可夢偉とアンドレ・ロッテラーの交代。F1界全体を見れば、メルセデスAMGの騒動の方が大きな話題と言えるでしょう。だって二人はまさに選手権をリードしてチャンピオン争いに飛び込もうとしている矢先。この二人が接触してハミルトンのタイヤがバースト、ピットへ入り大きく遅れてしまったのだから、注目されるのは当たり前と言えば当たり前だ。

「ロズベルグに非がある」と公言したマネジメントの失態

 しかし、二人の接触がなぜこれほどまでの騒動になってしまったのか? それはメルセデスF1チームのマネジメントが、「接触はロズベルグに非がある」と公に言ってしまったせいだ。こんなチームのマネジメントってあり? 二人とも同じチームのドライバーで、二人とも勝利を重ね、二人ともタイトル獲得の可能性があるドライバーですよ。その二人の接触を片方のドライバーのせいにしてしまった。これはドライバーというよりマネジメントの大失態でしょう。

 実際に接触時の映像を見ても、ロズベルグが故意にぶつけたようには、私にはとても思えない。そもそもチームメートのタイヤをパンクさせようとしてぶつけるか? そんなに狙った運転ができるか? ましてやぶつけると、“なんとかボード”とか“かんとかウイング”とかゴチャゴチャと空力部品が付いている今のF1では、自分のクルマがダメージを被るのは避けられない。さらに言えば、チームメートをつぶして勝っても気持ちが良くないばかりか、禍根を残すこと必至だろう。ロズベルグだってそこまでばかじゃないでしょう。

 ということは、「故意にぶつけやがった」と言ったハミルトンの方がよっぽどばかに違いない。そして、ぶつけられた彼がロズベルグを責めるということは、逆の立場を考えてみた時、「自分はロズベルグにぶつけるね」と言ってるようなもんだ。そして、そのハミルトンの言葉を信じたチームのマネジメント。どうかしているよ。

 ハミルトンだって本当にぶつけられたんだと思っているなら、レースが終了したらロズベルグをぶん殴るぐらいしたらどうだ? 直接ロズベルグに言う前にインタビューでロズベルグを非難するなんて……。

優秀な二人のドライバーが生み出す悩み

 現実には、レース後の金曜日、メルセデスのマネジメントと二人のドライバーが話をし、ロズベルグは「判断を誤った」とハミルトンに謝った。まあ、大人の判断だ。だが、接触を招いた判断ミスを謝ったのであって、ハミルトンが公に「ロズベルグは故意にぶつけた」と言った事実については納得いかないはずである。また、チームのマネジメントがロズベルグを非難した点に関しても納得はしていないだろう。会社の上司に公に「お前が悪い」と言われれば、社員は「そんな会社は辞めてやる」と考えるだろう。ロズベルグはそこまでの判断はしていないが、内心じくじたるものがあることは明白だ。

 イタリアGP(9月5日〜7日)を前に、一応チーム内は丸く収まったように見えるが、これから先、シーズンが終盤に入ると、二人のドライバー間の確執は激しさを増すはずだ。二人を自由に戦わせるという方針をとったメルセデス。その結果がかつてのアイルトン・セナとアラン・プロストの関係のようにならないとは限らない。そうなった後では遅いが、チームオーダーを出せばそれどころじゃ済まなくなるだろう。メルセデスのマネジメントは頭が痛いだろうが、優秀なドライバーを二人抱えたチームの宿命だと諦めるしかない。

 おっと、今回はケータハムに関して書くスペースがなくなった。すぐに追いかけるように次回を書くのでしばらくお待ちを!

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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