厳格かつ柔軟な新しい指揮官 就任会見から考えるハビエル・アギーレ像

宇都宮徹壱

発言から見えてくる指揮官の志向

会見での発言から指揮官の志向が見えてきた。若い選手を抜てきし、特定の選手やシステムに依存しないチームになりそうだ 【宇都宮徹壱】

 それではアギーレは、どのような方向性で日本代表を作り上げていこうとしているのか。この日の会見での発言から探ってみることにしたい。

「将来性のある選手を呼びたい。代表チームに入ることに意欲的な選手、国を背負って戦う気持ちのある選手、個人のプレーではなくチームとしてプレーできる選手、試合に貢献できる選手を選びたい」

「私はユース世代の育成にも興味を持っている。たとえば五輪代表などだ。そういったところにも目を配りながら代表監督の責任を果たしていきたい」

 選手選考についての発言。「国を背負って戦う気持ち」があり、「チームとしてプレーでき」て「試合に貢献できる」選手というのは、前任のザッケローニも同様のことを語っている。ただし「将来性のある選手を呼びたい」「育成にも興味を持っている」という発言を聞く限り、若い選手の抜てきは大いに期待できそうだ。

「私が作りたいチームは切磋琢磨(せっさたくま)するチームだ。相手がどこであろうと全力で戦う、競い合うチームを作りたいと思う」

「次の試合に招集されたからといって、今後も招集するとは限らない。これらの試合を通して選手のプレーや技術を観察しながら、チームを作り上げたいと思う」

 要するに「特定の選手に依存しない」「メンバーを固定しない」という宣言である。もちろん新チームにもコアとなる選手は必要となるが、コンディションが悪い選手や所属チームで出場機会が得られない選手は、その限りではないということだ。

「ディフェンスの選手4〜5人だけが守備をするのではなく、GKもFWも含めて11人全員が守って攻められるチームを目指す」

「シチュエーションに応じて、4−3−3から5−2−3に変化することもあるし、トップを2枚ではなく3枚にすることもあり得る。試合の状況に応じてフレキシブルにシステムを使っていきたい」

「全員が守って攻められるチーム」というのは、ザッケローニも目指していたわけで、その意味では継続性が感じられる。ただし前任者は、最終的に3−4−3というオプションのシステムを放棄せざるを得なかった。戦況に応じてシステムを変えながら戦えるのは、ある意味で理想的といえるが、活動期間が限られた代表チームでどれだけ可能なのか。まずはお手並み拝見といったところであろう。

「私の哲学は非常にシンプルだ。とにかく走る、良いプレーをする、そして勝利を収める」

「代表チームの一員というものは各自が自分の責務を果たすことが重要だ」

 いずれもベーシックでありながら、最もこの人らしい発言に感じられた。今後招集される選手は、運動量と個々のタスクといったものを厳しく求められるだろう。

新監督アギーレに求めたいこと

 就任会見から見えてくるアギーレ像を一言で表現するなら「厳格さと柔軟さ」ではないだろうか。選手には競争と貢献を厳格に要求する一方で、メンバーの序列やシステムや戦術については柔軟に対応することも示唆している。その上で、これから4年後のW杯ロシア大会を目指す上で新監督に求めたいのは、下記の4点である。

(1)守備の再構築
(2)Jリーグの積極的な視察
(3)アンダー世代代表との密な連携
(4)戦う集団への意識改革

(1)については、今回のW杯で特に日本に欠けていた部分である。「DFだけが守備をするわけではない」という考えには賛同するが、それでもベースとなるディフェンスの約束事は徹底させるべきだし、人材についてもさまざまな選手にチャンスを与えてほしい。

(2)については、アギーレ自身が「これからできるだけ多くのJリーグの試合を見たい」と語っていたので、心配はしていない。より多くの才能を見てほしいと思う一方で、さまざまな会場に赴くことでJリーグの多様性や日本サッカーの特異性といったものにも目を向け、この国で指導することの難しさとやりがいを実感してもらいたい。

(3)については、U−21代表監督の手倉森誠監督をコーチ陣に入閣させることが「絶対条件だった」と原技術委員長も語っているが、どれだけ細やかな意思疎通ができるかについては未知数。アンダー世代の将来性のある選手を引き上げ、A代表での競争を活性化させるためには、次の技術委員長の手厚いサポートと新任の通訳の細やかな機微が重要となる。

 そして(4)。実はこれこそが、最も重要だと思っている。今回のブラジル大会で失望させられたのは、あらゆる局面で日本が「戦えていなかった」ことである。それは「日本らしいサッカー」や「世界とのレベルの差」以前の問題であった。選手として、そして監督として都合3回W杯を戦ってきた指揮官には、この4年間で日本代表を戦う集団に鍛え上げることを強く望みたい。

 アギーレに求められるのは、ザッケローニ時代に培ってきた路線の継続性だけでない。前政権で足りなかったもの、おざなりになってきたものへの改革に着手することもまた、新たな指揮官に課せられた重要なミッションである。それを断行するためには、選手だけではく、時にはJFAやスポンサー、メディアに対しても妥協無く接する必要に迫られるかもしれない。そこはぜひとも、自身のスタイルを貫いてほしい。もちろん、われわれメディアもまた、新監督に疑義があれば遠慮なく指摘させていただく。監督、選手、JFA、スポンサー、そしてメディアが健全な緊張関係を保つこと。まずはそこをスタートラインとして、4年後に向けた新たな挑戦が始まる。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント