初優勝に突っ走った75年球宴の記憶 “カープ祭り”に思い重ねて

週刊ベースボールONLINE

75年オールスター第1戦、山本浩(中央)は4打数3安打5打点と大爆発。見事、MVPに輝いた 【写真=BBM】

 今年のオールスター第1戦(西武ドーム)は広島勢の活躍が目立ったが、ちょうど39年前、1975年のオールスター第1戦(甲子園)も記憶に残る一戦だった。山本浩二、衣笠祥雄が連続打席アベック弾を放ち、広島が新しい時代を切り拓いたことを印象付けた。広島にとっては縁起の良い、初優勝へ勢いを加速させた夢の球宴を振り返る。

7月19日を境に「ひょっとしたら」

 75年のセ・リーグ前半戦の大きな話題は、巨人が4月12日に最下位となって以後、オールスター前まで、とうとう一度も5位以上に浮上できなかったことと、毎年、「鯉のぼりの季節まで」と言われた前年最下位の広島が、夏場になっても下降線をたどらず、前半戦を3位で折り返す大健闘、この2つだった。首位阪神から中日、広島、ヤクルトまでの上位4チームはわずか2ゲーム差の間にひしめく。巨人の凋落と他チームの戦力が拮抗(きっこう)していることをハッキリと示した前半戦の成績だった。

 それでも「広島が優勝する」と断言する人は少なかった、というよりほとんどいなかった。何しろ3年連続最下位のチームだ。この「負けぐせ」と縁を切るのは容易なことではない。

 しかし、7月19日以降、「ひょっとしたら」の声があちこちから上がり始めたのである。その日はこの年のオールスターゲーム第1戦だった。全セの監督は前年優勝・中日の与那嶺要監督。彼の頭にひらめいたのが広島・山本浩二の三番抜てきだった。「これまでオールスターには2度出ているけど、いい思い出はない」(山本浩)と、出場前から、一歩後ろに引いたようなことを言っていたが、その尻をたたくように与那嶺監督は、こう言った。「山本浩は、すでにセ・リーグの中心選手だ。三番を打つのは、彼をおいてほかにはいない」

広島から5人選出、山本浩は燃えに燃えた

そうそうたるメンバーが並ぶ全セの中に広島勢は5人選ばれた 【写真=BBM】

 これは確かに効果があったようだ。「王さん(貞治、巨人)とブチ(田淵幸一、阪神)とクリーンアップを組めるなんて、こんな名誉なことはない。カープのためにも目いっぱい暴れ、それだけの数字を残さなくては。幸い今年は体調も調子もベストなので、いつもの年と違って自信はある」と山本浩。いつもは夏場にバテて体重が落ちるのに、この年はベストの77キロをキープ。それより何より、例年なら1人か2人しか選ばれない広島から、この年は5人も選ばれたのが、山本浩のヤル気に火をつけた(5人は、山本浩、衣笠祥雄、外木場義郎、大下剛史、池谷公二郎)。さらにファン投票では外野手で2年連続のトップだった。

 このように山本浩は燃えに燃えていたのだが、球場のファンの興味は、山本浩ではなく、江夏豊(阪神)と太田幸司(近鉄)の両先発の投げ合いに集中していた。かつての甲子園のアイドル・太田は前年、初めて2ケタ勝利(10勝)を挙げ、この年も好調だった。ファン投票でも最多の11万6794票を集めた。

 しかし、太田ファンは初回から悲鳴を上げることになる。1点を奪われた無死三塁で、山本浩が左翼ポールを巻く豪快な2ラン。それでも太田は気を取り直して王を二飛、田淵を三ゴロに打ち取った。次は同じ広島、六番の衣笠。高めのボール球を上からたたきつけると、ライナーとなって、これも左翼越え本塁打。好調カープを引っ張ってきた2人の2本のアーチに、ファンは「今年の広島は違うぞ!」と刮目したのだった。

1/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント