初優勝に突っ走った75年球宴の記憶 “カープ祭り”に思い重ねて
75年オールスター第1戦、山本浩(中央)は4打数3安打5打点と大爆発。見事、MVPに輝いた 【写真=BBM】
7月19日を境に「ひょっとしたら」
それでも「広島が優勝する」と断言する人は少なかった、というよりほとんどいなかった。何しろ3年連続最下位のチームだ。この「負けぐせ」と縁を切るのは容易なことではない。
しかし、7月19日以降、「ひょっとしたら」の声があちこちから上がり始めたのである。その日はこの年のオールスターゲーム第1戦だった。全セの監督は前年優勝・中日の与那嶺要監督。彼の頭にひらめいたのが広島・山本浩二の三番抜てきだった。「これまでオールスターには2度出ているけど、いい思い出はない」(山本浩)と、出場前から、一歩後ろに引いたようなことを言っていたが、その尻をたたくように与那嶺監督は、こう言った。「山本浩は、すでにセ・リーグの中心選手だ。三番を打つのは、彼をおいてほかにはいない」
広島から5人選出、山本浩は燃えに燃えた
そうそうたるメンバーが並ぶ全セの中に広島勢は5人選ばれた 【写真=BBM】
このように山本浩は燃えに燃えていたのだが、球場のファンの興味は、山本浩ではなく、江夏豊(阪神)と太田幸司(近鉄)の両先発の投げ合いに集中していた。かつての甲子園のアイドル・太田は前年、初めて2ケタ勝利(10勝)を挙げ、この年も好調だった。ファン投票でも最多の11万6794票を集めた。
しかし、太田ファンは初回から悲鳴を上げることになる。1点を奪われた無死三塁で、山本浩が左翼ポールを巻く豪快な2ラン。それでも太田は気を取り直して王を二飛、田淵を三ゴロに打ち取った。次は同じ広島、六番の衣笠。高めのボール球を上からたたきつけると、ライナーとなって、これも左翼越え本塁打。好調カープを引っ張ってきた2人の2本のアーチに、ファンは「今年の広島は違うぞ!」と刮目したのだった。