スアレスの加入は吉と出るか凶と出るか!? エンリケ監督率いる新生バルサの挑戦

工藤拓

ルイス・エンリケ監督が目指すチームとは?

バルセロナの新監督に就任したルイス・エンリケ。既存の型にとらわれず、多彩なオプションを持つチームを作ろうとしている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 この日の会見でも「バルサはクラブ以上の存在だと言ってきたが、スアレスを獲った。それはもう普通のクラブになったということか?」と、挑発的な質問を行うイングリッシュスピーカーの記者がいた。そしてその質問に対し、スビサレッタはこう答えている。

「我々はあらゆる人間の不完全さ、犯した失敗から学べる能力を受け入れている。私はスアレスがクラブにとってポジティブな存在になってくれると信じている。それも我々が持つ価値観の1つなんだ」

 国全体を敵に回すまでに至ったイングランドでの経験を踏まえ、精神的に成熟したプレーヤーとなれるかどうか。その課題さえクリアすることができれば、スアレスは近年のバルサになかった多くのプラスアルファをもたらす存在となる可能性を秘めている。

 先の会見で「どんなチームを作りたいのか」と問われた際、ルチョは「多くのタイトルを獲得してきたこの数年間、継続して示してきたスタイルに忠実なチームを望んでいる。魅力的なやり方で結果を求めていきたい」と、スタイルの継続を明言した。だが「4−3−3が唯一のシステムとなるのか?」と問われた際の答えは興味深いものだった。

「さまざまな戦術、異なるシステムを使っていく。常にライバルを驚かせる、予測不可能なチームになるのは選手たちにとっても興味深いことだと思うよ」

 メッシをファルソヌエベ(偽9番)とする4−3−3のシステムが定着して4シーズン。既に多くのライバルが有効なバルサ対策を確立してしまった現状を打ち破るべく、ルチョは既存の型にとらわれない多彩な戦術オプションを持つチームを作ろうとしている。そんな指揮官にとって、1トップでも2トップでも、3トップのサイドでもプレーできる万能ストライカーのスアレスは、さまざまな采配を可能にしてくれるキーマンとなることが期待されている。

W杯の落胆はもう過去のこと

 またテクニックに優れる反面、ハードワークの精神に欠けるチームにとって、貪欲さをむき出しにして戦うスアレスのアグレッシブな姿勢は良い刺激になるはずだ。国内リーグやチャンピオンズリーグといった未経験のビッグタイトル獲得への野心も同様に、あらゆる成功を手にしたことでモチベーションの維持が年々難しくなっているチームが必要としていたものだ。

 マルク=アンドレ・テル・シュテーゲン、イバン・ラキティッチ、クラウディオ・ブラーボ、そしてスアレス。さらに期限付き移籍から戻ってくるラフィーニャ、ジェラール・デウロフェウを加えれば、早くも今夏の新加入選手の数は6人に上る。

 さらに地元メディアは、あと3人の獲得が濃厚だと伝えている。カルレス・プジョルの穴埋めが急務であるセンターバック(CB)の第一候補は、左サイドバックでも使えるジェレミー・マテュー。彼についてはスビサレッタもバレンシアと交渉中であることを認めている。CBはさらにパリ・サンジェルマンのマルキーニョスを獲る可能性も報じられているが、それはアレックス・ソングを放出し、ハビエル・マスチェラーノをピボーテに回す必要が生じるかどうかに関わってくる。

 もう1人は、去就が不確定なダニエウ・アウベスの後釜候補と言われるフアン・ギジェルモ・クアドラドだが、彼の本職はウイングでありサイドバックではない。彼を良く知る元コロンビア代表監督のフランシスコ・マツラナは「クアドラドは守備の選手じゃない。ダニエウ・アウベスが守備に問題を抱えているのであれば、クアドラドはその問題を倍増させることになる」と指摘しているが、果たしてルチョの意図はどこにあるのか。

 W杯の落胆はもう過去のこと。既にスペインは新シーズンへ向けた話題に満ちている。新生バルサのプレシーズン初戦は19日のレクレアティーボ・ウエルバ戦。まだW杯組が不在とはいえ、既にルチョの挑戦は始まっている。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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