ダルの超遅球カーブに見た未来への期待 新たな物語が加わった“夢の球宴”
ジーターとトラウトの運命的な活躍
“ミスターMLB”ジーターは最後のオールスターでも活躍。4回表、盛大なスタンディングオベーションを浴びて交代。メジャー史に刻まれる名シーンとなった 【Getty Images】
今季限りで引退を表明している“ミスターMLB”デレク・ジーター(ヤンキース)は、第1打席でライト線への二塁打、第2打席でライト前安打。あらためて大舞台での強さを見せると、4回表のイニング開始前に交代を告げられ、盛大なスタンディングオベーションを浴びてフィールドから去った。
「素晴らしい瞬間。いつまでも覚えていることだろう」
後にジーターが語った通り、ア・リーグの指揮を執ったジョン・ファレル監督(レッドソックス)の配慮によって、メジャー史に刻まれる新たな名シーンが生まれた。
1回裏にはそのジーターを二塁において、一般的に“次のMLBの顔”の最有力候補とみなされるマイク・トラウト(エンゼルス)が先制点となる三塁打を放った。トラウトは5回にも三塁線に適時二塁打を放ち、2安打2打点でMVPを獲得。“ミスターMLB”にとっての最後の球宴で、その後継者と言われる若武者が史上2番目の若さでMVPとなったことは、どこか運命的と感じさせずにはいられなかった。
大成功に終わった球宴だが……
ア・リーグが2点リードを守って迎えた9回表には、地元ツインズの守護神、グレン・パーキンスと捕手、カート・スズキの2人が“クローザー”バッテリーとして登場。見事に3者凡退でリードを守り切り、29年ぶりにミネソタで開催されたオールスターは奇麗な形で幕を引いた。
こうして多くの“ファンタジー”が生まれた2014年の球宴は、間違いなく成功と言って良い美しいものだった。その舞台で、ダルビッシュも1回を無安打無失点1三振と完璧なピッチングを披露した。
そして、だからこそ、トロウィツキーへのあの1球は少々残念ではあった。米国では“イーファス・ピッチ”と呼ばれる超遅球を決めていれば、その多彩さから“マジシャン”と形容される日本人エースの魅力を全米にアピールすることができていたはず。シーズン中から自信を持って使っているスローカーブが、もう少しだけ低めに落ちていれば……。
超遅球がストライクだったら、手を出した?
「分からないけど……。いや、振っていたと思うよ」
“あの球はボールだと思ったから、スイングしなかったということ?”とさらに突っ込むと、29歳のスター遊撃手は笑顔で「そう、そう、そうだよ」。
予想外のカーブに完全にタイミングを外されたようにも見えたが、さて、本当だろうか。真実は分からない。その答えが、次の勝負の機会で出されるのをまずは楽しみに待ちたいところである。
オールスターの中で編み出された物語は、今後へと引き継がれる。両リーグを代表するスターになったダルビッシュとトロウィツキーの2人なら、これから先も対戦のチャンスはあるだろう。同じく今年の球宴を彩ったトラウト、アンドルー・マカチェン(パイレーツ)、クレイトン・カーショー(ドジャース)らとともに、ジーターに代わり、今後しばらくメジャーの顔として君臨していくのだろう。
過去、現在、未来がつながるのがオールスター。ジーター、トラウト、上原、ダルビッシュ、トロウィツキー……。多くの選手の人生に新たなストーリーが加わり、2014年の“夢の球宴”は爽やかに終わった。