栄冠を勝ち取るため進化し続けたドイツ 大会前の不安を払拭し4度目の戴冠

中野吉之伴

頂点への壁となっていたスペイン

常に自分たちの前にいたスペインを越えるため、進化を続けてきたドイツ。カウンター、ポゼッションサッカーと対策を練っていた 【写真:ロイター/アフロ】

 4大会連続で準決勝進出と、他のどこにも真似できない安定した成績をドイツは挙げてきた。それも着実にレベルアップをしながら。ドイツはなぜ進化を続けられるのだろうか。
 進化を続けているということは完成形に到達していないということだ。ドイツは確かに国際舞台で確かな結果を残してきた。でも頂点には立っていない。ここ数年間、常にドイツの上にはスペインがいた。スペインを倒して世界一へ。それこそがドイツの目標だった。では「どうすれば世界一に?」それがドイツの問い続けたものだった。

 10年南アフリカW杯前にレーブは「守備的な戦い方ではもはや勝てない。リスクにトライしながら、攻守両面において仕掛けていかなければならない」と分析。具体的な目標はプレースピードを上げることだった。結果、06年ドイツW杯での平均ボールタッチ時間は2.8秒だったのが、南アフリカW杯では1.1秒にまで短縮された(優勝したスペインは1.0秒)。

 10年、ハイスピード化したドイツは美しく機能したコレクティブカウンターを武器に戦ったが、またしてもスペインの前に沈んだ。レーブは「カウンターだけでは相手に守備を固められると勝てない」と語り、今度はビルドアップからの崩しのバリエーションを深めようと試行錯誤した。しかし逆に攻撃への意識が高まりすぎた12年欧州選手権では、イタリアのカウンターの前に屈した。

最後のピースとなった「勝利への渇望」

目の下を切り、頬を血に染めながらも戦う姿勢を見せたシュバインシュタイガー。その勝利への渇望が優勝への最後の1ピースだった 【写真:ロイター/アフロ】

「レーブでは勝てない」

 メディア、そしてファンからは懐疑的な声が高まり始めた。それでもレーブは自分の信念を貫き続けた。

 12年の国際コーチ会議でドイツサッカー協会(DFB)専任指導者のベルント・シュトゥーバーは「大事なのは現在のトレンドを知り、ドイツサッカーの現状を分析し、何が足らなくて、何が必要かを知ること」と強調していた。それぞれの選手にはそれぞれの特徴と長所がある。大事なのは監督がチームの実情を分析し、自分たちが目指すべきサッカーのコンセプトを明確なものとし、チーム全体がしっかりと自分たちのサッカーというものを理解して取り組むことだ。取り組んできたことを1つずつやり直すのではなく、経験として蓄積していく。選手として、そしてチームとして。

 今大会ではこれまでの積み重ねが実り、個人としても、チームとしてもその引き出しの多さとそれぞれの質の高さが素晴らしかった。そして華麗なパスサッカーを追い求めすぎたために、淡泊になっていたドイツサッカーの原点で美徳だったものが戻ってきた。

 決勝戦で試合を決めたのはアンドレ・シュールレとゲッツェによる素晴らしいコンビからのゴールだが、勝利を引き寄せたのは、最後の最後まであきらめずに、逃げずに、体を張って、足を引きずって戦った彼らの闘志。頬を血に染めながらも立ち上がり、味方を鼓舞し、勝利を渇望し続けたシュバインシュタイガーの姿こそが、勝てそうで勝てないドイツに欠けていた最後のピースだった。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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