“元”世界王者スペインはどう変わるのか 「抜本的な改革」を望む世論と慎重な連盟

若手にも“即戦力”がそろうタレントの宝庫

ユーロ2016に向けて期待が集まるデ・ヘア(左)やチアゴ・アルカンタラ(右)。スペインには若手にも他国がうらやむほどのタレントがそろっている 【写真:ロイター/アフロ】

 とはいえ、サッキが「スペインは育成という、とても優れたベースを持っている」と語るように、スペインには次代を担う才能が次々と育っている。その代表格となり得るのが、UEFA(欧州サッカー連盟)U−21欧州選手権を11年、13年と連覇した世代だ。今大会の代表メンバーでは、GKダビド・デ・ヘアやDFセサル・アスピリクエタ、MFではコケやハビ・マルティネスがこれに該当するが、本番前の負傷で登録メンバー外となったバイエルン・ミュンヘンMFのチアゴ・アルカンタラやレアル・マドリーMFのイスコも“即戦力”として計算が立つ存在である。

 前述の『マルカ』のアンケートでは、「ユーロ2016に向けて期待される若手は誰か?」という質問もあり、候補17人中、イスコが18%で1位、DFダニエル・カルバハルが15%で2位、FWヘセ・ロドリゲスが14%で3位と、レアル・マドリーの若手3人衆が上位3位を占め、バルセロナのFWジャラール・デウロフェウが10%でこれに続いた。また、かつてバルセロナとレアル・マドリーの両クラブでプレーした、元スペイン代表FWアルフォンソ・ペレスのように、先日マンチェスター・ユナイテッドへの移籍が決定したMFアンデル・エレーラに期待する声もある。これまではフル代表の高い壁に阻まれていたが、スペインが、他国がうらやむほどのタレントの宝庫であることは世界中で認められている。

揺るがない指揮官への信頼

 一方、変わるものがあれば、変わらないものもある。それは、デル・ボスケの代表監督としての座は安泰というものだ。まだ正式に続投が発表されたわけではないが、9割5分の確率で、あと2年は代表監督の座に留まるとされている。W杯敗退決定後に行われた『アス』の読者アンケートで約6割が退任を要求するなど、老将の保守的なメンバー選考・采配を早期敗退の要因と見る向きがあったのは事実だ。しかし、いざ彼に暇を言い渡したとしても、後任に適任者がいないというのが現実なのだ。国内メディアでは、現ナポリ監督のラファエル・ベニテスや現ラージョ・バジェカーノ監督のパコ・ヘメスの名前が有力候補に挙がった。しかし、彼らは代表監督としての実績があるわけではない。それに前者は守備的なサッカーを得意とする一方で、後者は極端な攻撃サッカーを崇拝する。極めてバランス感覚に優れたデル・ボスケからバトンを引き継ぐには、多分にリスクを伴う。

 それゆえ、「スペイン代表を率いるのに、デル・ボスケ以上の監督はいない」というのが連盟を含めた結論というわけだ。先日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた講演会に参加した、現バイエルン監督のジョゼップ・グアルディオラも、デル・ボスケ監督続投を支持する1人である。現代表のサッカースタイルに多大な影響を与えた指揮官は、「高いクオリティーを持った次世代の選手たちを代表チームに取り込む上で、デル・ボスケは最高の適任者だ。彼らは、それらの選手たちのことをすでに知っているからね」と、代表監督としての経験値を続投の理由に挙げた。またサッキも、「ビセンテが代表監督に相応しくないとすれば、まず彼自身がそう言っているだろう。彼は聡明で、偉大な人間だ。彼に首を言い渡すのは、犯罪行為に値する」と、スペインの黄金時代を築き上げた功労者の早期引退に否定的なコメントを残している。今大会は自らの判断が大きな過ちを招いたが、御年63歳の指揮官への信頼は全くもって揺るがないのが現状だ。

 ユーロ2008以降、最強の名を欲しいままにし、真の“無敵艦隊”となったスペイン。だが、今大会はまさに一瞬のうちに沈没した。一度沈んだ船を再び浮上させるのは、そう容易ではない。さらに、新たなサイクルに突入していく過程では、荒波にもさらされるだろう。果たして、今後どんな航海を続けていくのか。その陣容を含めて、今後も彼らからは目が離せない。

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著者プロフィール

1984年生まれ、徳島県生まれ。マニュアル制作会社に勤めた後、2011年夏からフットメディアに所属。J SPORTSのプレミアリーグ中継や『Daily Soccer News Foot!』などに関わり、ライター・翻訳をメインに活動する。学生時代にはバルセロナへ1年間留学。ルームメイトがアルゼンチン人だったこともあり、南米コミュニティーのなかでフットボールのイロハを学べたことが今の財産。

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