勝ち方を忘れてしまったベテラン・マッサ=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第30回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

競技前の「夜の営み」はご法度か否か

 なぜだろうかと考えてみたら、こんな推論にぶつかった。「スポーツ選手は競技前にはセックスをしない方がいいんじゃないか」という論だ。唐突な意見かもしれないが、それにはこういう理由がある。マッサは決勝前夜には必ず(奥さんと)セックスをするというのだ。マッサに直接聞いたわけではないが、この話はずっと以前からパドックでごく普通に話題に上がっている。

 スポーツ選手とセックスと言えば、映画「ロッキー」では、老トレーナーが試合前のロッキーに「女は脚にくる」と忠告する場面があるそうだ(私は覚えていない)。また、モハメド・アリも「試合前にセックスをすると闘争本能が消える」と言っていたそうだ(直接聞いたことはない)から、昔からの避けては通れない話題なのかもしれない。

マッサが闘争心を失ってしまった真の要因とは……

 しかし、私はロッキーのトレーナーやアリのこの考えは間違っていると思う。マッサがレースのスタート30分前にセックスをしているわけではないし、実際に彼は結婚後も6回、F1で勝っているからだ。恐らくその前夜にも彼は奥さんとセックスをしたはずだ(マッサは2007年末に結婚。その翌年には6勝を挙げている。つまり全11勝の半分以上は結婚後の勝利なのだ!)。他のスポーツでは「競技前にセックスすると気分が落ち着くので、無理に禁欲することはしない」と言う選手がいる。彼や彼女はセックスをしたからといって、競技に負けてばかりではない。

 では、なぜ彼はボッタスに負けるようなレースをせざるを得なかったか? それは彼がF1の世界で過ごしてきた時間の長さに関係があるのだろう。同じ世界で一定以上の時間を過ごすと、どうしても人間はその世界に対する興味を失っていく。F1における興味は勝つためのモチベーションに他ならない。その興味が薄れたら、とてもトップグループで遮二無二走り続けることは不可能だ。つまり、マッサはそろそろ次の人生を考えた方がいい時期に来ているのではないか、ということだ。勝てない戦いをするほど惨めなことはない。それはマッサが一番よく知っている。ゆえに、あえて彼にそろそろ次を考えては、と言ってあげたい。

 ところで、マッサは長く一緒にいる奥さんとのセックスには、興味を失っていないのだろうか?

『AUTOSPORTweb』

【AUTOSPORTweb】

F1やスーパーGTの最新情報をリアルタイムでお届けするモータースポーツ専門サイト

2/2ページ

著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント