新戦力起用で見えた全日本の課題と光明 日本強化のカギは若手が挑戦できる環境

米虫紀子

大型ミドルブロッカーの成長が光明

新戦力の発掘が急務の全日本男子にとって、身長207センチの伏見(右)らの活躍は、今後の代表にとって重要となってくる 【坂本清】

 一方で、新戦力を起用し続けた成果はあった。南部監督が特にこだわったのが、若手の大型ミドルブロッカーだ。今大会では、身長207センチの伏見大和(東レ)、204センチの山内晶大(愛知学院大3年)、199センチの出耒田敬(堺)、198センチの衛藤英興(FC東京)を起用した。

 南部監督は、最も成長著しい選手として山内の名を挙げた。高校からバレーを始めたばかりのバレー歴6年目の選手だが、相手ブロックの上からクイックを打ち込み、フローターサーブで流れを変える役割も果たした。
「彼は大きな大会の経験がほとんどないのに、初の代表や初のアウェーでも堂々としていた。ブロックも、試合を追うごとに世界のスパイカーの攻撃を手に当てる回数が増えていった」と南部監督。

 その山内とともに多くの試合で先発出場した伏見も収穫だった。中学生の頃から超のつく大型選手として将来を嘱望されてきたが、22歳の今大会が初代表。高さだけでなく太さもあり、海外勢のパワーのあるスパイクも、伏見のグローブのような手に当たれば真下に落ちる。最終戦では、第5セットの7−10という追い込まれた場面で2連続サービスエースを奪いチームをよみがえらせた。一番の課題であったスピードも改善されつつある。

 伏見に限らず、若い選手たちはどこか全日本に対して淡泊だったが、ワールドリーグ最終戦のあと、伏見はこう語った。
「これまでは正直、代表にはあまりこだわりがなかったんですが、試合を積み重ねて、負け続けて、こうやって勝って、今回初めて『(代表に)残りたい』と欲が出た。今後メンバーが絞られると思うけど、次のアジア大会(9月、仁川/韓国)にも残りたい。試合を重ねるごとにどんどん自分が思ったようなプレーができるようになって、またこのチームで勝ちたいと思った。南部監督も、本当はもっといいベテラン選手がたくさんいる中で、無理してでも僕らみたいな若手を使ってくれているので、もっと成長してもっと勝ちにこだわっていきたい」

 全日本で先輩たちから受けた影響も大きいと明かす。
「特に(越川)優さんには口酸っぱく、『このままじゃ代表としては通用しないぞ』と言われて、生活の部分からどんどん厳しい指摘をされました。日の丸をつけている自覚を持つという意味が分かってきた。バレー以外で削れる部分がもっとあるなと思いました」

大学生の強化が課題

大学生で出場したのは山内のみ。大学との兼ね合いは、まだまだ課題である 【坂本清】

 ただ、若手といっても今回のワールドリーグで起用したのはほとんどがVリーグ1〜3年目の選手で、大学生は山内1人だけだった。

 今年の全日本登録メンバーには山内、柳田将洋(慶応義塾大4年)、高橋健太郎(筑波大2年)、石川祐希(中央大1年)の大学生4人が選ばれていたが、授業の関係で試合前日からしか合流できないという条件があったり、大学の試合との兼ね合いなどで調整がうまくいかず、山内以外は登録や招集を見送られた。その点は昨年までとあまり状況は変わっていない。

 今月26日、日本バレーボール協会は、2020年東京五輪やその先に向けてバレーボールを活性化するためのプロジェクト「Project CORE」を発表。その中の選手強化策として、集中的に強化する選手18名(男子10名、女子8名)からなる「Team CORE」を発足させた。男子はその10人中6人が大学生だ。荒木田裕子強化事業本部長も、「そこが今一番の課題」と頭を悩ませる。「授業や試験との兼ね合いをどううまくやりくりしていくか、大学としっかり話し合って理解を求めていくしかないと思っています」

 全日本大学バレーボール連盟の強化委員長に、今年4月、東海大の積山和明監督が就任したことは明るい材料だと見られている。積山監督はこれまでも、「所属する選手を代表に呼ばれて、出さなかったことはない」というスタンスだっただけに、南部監督は、「ちょっと流れを変えていただけるんじゃないか」と期待する。
「世界では、やはり(特別な)能力のある選手でないと勝負にならない。若手を積極的に起用するということを、あまり(周囲に)信じてもらえていなかったと思うんですが、今回、山内を先発で起用し続けたことで、本気だと分かってもらえたんじゃないかと思います」

 確かに、今回の山内の活躍は、他の大学生の刺激になっている。
 石川は、5月に話を聞いた時には、「徐々に(ジュニア代表から)ステップアップしていければいいかなと思う」と話していたが、今回のワールドリーグを見て、早くシニア代表に行きたいと気がはやったという。
「自分も頑張らないといけないなって、刺激になりました。自分も早く、ああいう場で世界と戦いたい」

 7月の合宿からは、石川や柳田も参加する予定だ。また「Team CORE」では、Vリーグが開催されている冬場に、学生をキューバなど北中米に派遣して武者修行をさせる構想もあるという。

 日本代表へ、五輪へ。目の色を変え始めた若手選手が、どんどん高いレベルに挑戦できる環境作りが日本の強化のカギとなる。

2/2ページ

著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント