メキシコ、6大会連続決勝T1回戦で敗退 殻は破れずも賞賛されるべきエレーラ監督

池田敏明

均衡を破り、監督もガッツポーズ

ネット上でも話題のエレーラ監督。苦悩続きだったチームを立て直した手腕は見事だった 【写真:ロイター/アフロ】

 一方のオランダは、試合開始早々にアクシデントに襲われる。中盤の潰し役を担うナイジェル・デ・ヨングがケガを負い、わずか9分でブルーノ・マルティンス・インディとの交代を余儀なくされる。高温多湿の気候によりただでさえ選手たちの動きが鈍る中、彼の離脱によって中盤のプレスが緩くなったため、メキシコの猛攻にさらされる形となったが、前半のアディショナルタイムにはファン・ペルシが相手のパスミスを拾ってフリーでドリブルを仕掛けるビッグチャンスを迎える。キャプテンは相手を引き付けたところで並走するロッベンにパスを出したが、ラファエル・マルケスとエクトル・モレノに食い止められ、得点は奪えず。この時のプレーでモレノが負傷したため後半からディエゴ・レジェスを投入することになり、メキシコも1枚目のカードをケガ人に切らざるを得なくなってしまった。

 後半開始直後、メキシコが均衡を破る。ロングフィードを相手DFがクリアし、その浮き球をドス・サントスが胸トラップで収めて左足を一閃。ゴール右隅に突き刺さると、エレーラ監督はもはやおなじみとなった力強いガッツポーズで喜びを表現した。オランダはメンフィス・デパイを投入して布陣を4バックに変更。反撃に転じる。直後のCKからステファン・デ・フライが決定的なシュートを放ったものの、メキシコの守護神ギジェルモ・オチョアに反応され得点ならず。ブラジル戦で無失点の立役者となったオチョアはこの日も当たっており、74分にもロッベンのシュートをブロックするシーンがあった。

攻撃的な選手交代で流れをつかんだオランダ

 メキシコがドス・サントスに代えてハビエル・アキーノ、ペラルタに代えてハビエル・エルナンデスとバランスを維持するための選手交代を行い、そのまま逃げ切ろうとしたのに対し、オランダのルイ・ファン・ハール監督はファン・ペルシに代えてクラース・ヤン・フンテラールを投入。ロッベン、デパイ、ディルク・カイトとともに最前線に並べた4トップ気味の布陣で攻勢を強める。この積極性が最後に劇的な展開を導いた。88分、CKをフンテラールが折り返すと、ウェスレイ・スナイデルが右足で強烈なボレーシュートを叩き込み同点に追い付く。これまでファインセーブを連発してきたオチョアも、このシュートには一歩も動けず、その軌道を見送るしかなかった。

 さらに後半アディショナルタイム、終盤になっても切れ味を失わなかったロッベンのドリブルが、ついにメキシコ守備網のほころびを突くこととなる。右サイドからペナルティーエリア内に侵入して切り返すと、ラファエル・マルケスが足をかけてしまい、PKの判定に。これをフンテラールが沈め、オランダが劇的な大逆転勝利を飾った。

チームを立て直した手腕は見事

 大会を盛り上げてきたメキシコは残念ながらここで敗退。大陸間プレーオフの末に本大会出場権を獲得し、W杯登録メンバー発表後にフアン・カルロス・メディーナ、ルイス・モンテスと負傷離脱者が相次ぐなど苦悩続きだったことを考えると、ここまでチームを立て直したエレーラ監督の手腕は見事だったと言える。

 1994年のW杯米国大会から6大会連続で決勝トーナメント進出という偉業を成し遂げた一方、6大会連続で決勝トーナメント1回戦敗退と、いま一つ殻を破り切れずにいるのも事実で、今後はさらなるレベルアップが求められる。同国サッカー連盟はこれまでの実績を評価し、どうやらエレーラ監督を続投させる模様。次のW杯では、もう少し長い期間、大会にとどまり、さまざまな話題と素晴らしいプレーを提供してほしいものだ。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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