際立つアメリカ大陸の優位とカウンター 変化を感じさせたグループリーグを総括

西部謙司

サプライズはチリとコスタリカ

W杯はグループリーグが終了。コスタリカの躍進など、前回の南アフリカ大会からはいくつかの特徴的な変化が見られた 【写真:ロイター/アフロ】

 ベスト16のうち南北アメリカ大陸のチームが半分の8チームを占めた。

 過去、南北アメリカ大陸で開催されたワールドカップ(W杯)は、すべて南米のチームが優勝していることからも、地の利はあるに違いない。気候やピッチコンディションへの慣れも考えられるが、コンディショニングの差もあるかもしれない。

 南米勢はヨーロッパのクラブでプレーしている選手も多く、W杯予選のたびに地元へ戻ってプレーするのに慣れている。一方、ヨーロッパ勢はヨーロッパから出ることはほとんどない。開催国のブラジルはもちろんだが、南北アメリカ大陸勢にはファンの応援も多く、ホーム感覚でプレーできるのも大きい。

 優勝候補筆頭のブラジルは気合い十分、チアゴ・シウバとダビド・ルイスのセンターバック(CB)コンビが強力で守備が固い。半面、攻撃はネイマール頼みで、中盤の組み立て役がいないのは物足りない。そのせいか、フェリペ・スコラーリ監督は対戦相手によって攻め方を工夫している。開幕のクロアチアに対しては、攻撃力はあるが守備に不安のあるルカ・モドリッチとイバン・ラキティッチのダブルボランチが守るエリアにネイマールをぶつけた。浅いフラットラインを敷くカメルーンに対しては、あえて中盤を省略するロングボールを多用。コンパクトになっているカメルーンの中盤を回避するとともに、FWの個人技を使って前方に攻撃の起点を作った。

 サプライズはチリとコスタリカだ。

 平均身長が最も低いチリ(176.2センチ)は、前線からのプレスを徹底させてスペインのティキ・タカ(細かくパスをつなぐプレースタイル)を封じて快勝。マルセロ・ビエルサ前監督時代のスタイルを受け継ぎ、抜群の運動量でゲームのテンポを上げて主導権を握っている。

 コスタリカは日本のアルベルト・ザッケローニ監督が諦めた3−4−3システムを使っている。サイドで数的優位を作れる特徴を活用し、サイドに追い込んで挟み込む守備が効いている。攻撃の中心はジョエル・キャンベルやブライアン・ルイスだが、ボランチのセルソ・ボルへスやCBのオスカル・ドゥアルテの高さを生かしたセットプレーが得点源になっている。

カウンターの餌食となったポゼッション型のチーム

 前回の2010年W杯南アフリカ大会はボールポゼッションが高く、ゾーンディフェンスの隙間をつくパスワークに秀でたスペインが優勝した。準優勝したオランダ、3位のドイツもパスワークの良いチームだった。

 一方、今大会は一世を風靡(ふうび)したスペインのティキ・タカが大会初戦からオランダに封じられ、アリエン・ロッベンとロビン・ファン・ペルシのスピードを前面に押し出したオランダのカウンターアタックに大敗を喫した。

 オランダはもともとスペインと同型の戦術なのだが、グループリーグで対戦するスペイン、チリにはボール支配で不利になると判断してカウンター型の戦法を用意した。グループリーグを勝ち抜いてもブラジル、メキシコと対戦する可能性があったので、思い切って戦い方を変えたわけだ。5バックでコンパクトに守り、ロッベン、ファン・ペルシ、ウェズレイ・スナイデルによるカウンターで次々に加点 。5−1の大勝スタートを切った。広いスペースを使ったカウンターでは、ロッベンが強烈な加速力を見せつけている。

 鋭いカウンターを武器にしたチームは勝ち上がる傾向が出ている。フランスとコロンビアは洗練されたカウンターアタックで得点を量産した。本来カウンター型のベルギーは、対戦相手に引かれたことで特長を出せていないが、内容が悪いながら3戦全勝で勝ち上がったのは興味深い。スペイン風のパスワークを取り入れたイタリアが敗退。ポルトガル、日本、コートジボワールも勝ち上がれず。本家のスペインでさえ早々に敗退が決まる中、そこまでのレベルにないチームはカウンターの餌食になって沈んでいった。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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