「組織」で挑むも「個」に破壊された韓国 監督がこだわりすぎたロンドンの選手たち

吉崎エイジーニョ

GL敗退に対する韓国世論は?

韓国国内では、ホン・ミョンボ監督にパク・チュヨン(写真)ら「自分の好みの選手にこだわりすぎ」という批判が多く見られる 【写真:ロイター/アフロ】

 ベルギー戦は結局、そこからの回復ができない状況でのゲームだった。同時進行のアルジェリア対ロシアの結果いかんでは、ベルギー相手に4点差の勝ちが必要な状況となった。試合後、韓国国内最大のポータルサイト『NAVER』でクローズアップされた記事に韓国世論が如実に現れている。

“奮闘の結果……ベルギーに0−1の敗北。ベスト16入り挫折”

『エクスポーツ・ニュース』。サッカーコーナートップ記事。まずは「奮闘」と入れたポジティブな記事をトップには据えておこうという意図が伺える。セウォル号事故で沈んだ国内の雰囲気を、代表チームが少しでも回復させることが期待されていた点を感じさせる。

“主将ク・ジャチョル「(パク・)チュヨン先輩が一番つらかったと思う」”

『OSEN』。この記事を2番目に掲載。批判され続けた1トップのパク・チュヨンを扱う記事。その他、英国記者の見た韓国、アジア勢未勝利、ベルギー戦マンオブザマッチの選手の話題などが上位に。一方、「第2特集」とも言えるスペースにはより鋭い世論が見て取れた。

“<パンチング・ショー>キム・スンギュの安定感、ホン・ミョンボ監督だけが知らなかった”(『イーデイリー』)

“<高さ> キム・シンウク、<蜘蛛の手> キム・スンギュ……なぜ、今さらなのですか?”、“<キム・シンウクカード>的中。あまりに遅かった変化”(ともに『エクスポーツニュース』)

 つまりは、ホン・ミョンボが「自分の好みの選手にこだわりすぎ」という点に最も大きな批判が集まっているのだ。世論をざっくり代弁すると、こうなる。

“時間がなかった点は理解できる。五輪での実績も知っている。まあホン・ミョンボの代表監督の契約は15年6月までだから、まずは1月のアジアカップで54年ぶりのアジア制覇がなるのかまでは見守ろう。しかし、それにしてもこだわりが強すぎるんじゃない? さすがに大舞台での経験のなさが出たか?”

不透明なホン・ミョンボの去就

 最終エントリー発表前後から、“えこひいき”への不満はくすぶっていた。

 最大の標的は「所属チームで試合に出場していない選手は招集しない」との原則を崩してまで招集したパク・チュヨン。13−14シーズン、ワトフォード(イングランド)で数試合出場したのみだったにもかかわらず招集された。しかも、エントリーが発表される前にチームを離れ国内に戻り、トレーニングを続けた点は論争の的になった。ロンドン五輪のオーバーエイジ枠で活躍したパクだったが、過去に兵役逃れの疑いが浮上するなど国内のイメージは決して良くないのだ。

 猛烈な逆風のなかピッチに立ったが、2試合に先発出場し、シュートわずか1本の結果だった。一方で、1度も出場機会を得られなかったフィールドプレーヤーがザックジャパンより多い5人(負傷者含む)といういびつな構造になった。

 結局、組織にこだわるあまり「個」を信じ切れなかったのだ。その結果、相手の「個」にチームを破壊されてしまった。

 韓国サッカー界が大いなる期待をかけるエリート指導者、ホン・ミョンボ。最初のW杯は、こうして終わった。試合後の会見では、質問が去就問題にも及んだ。ホン・ミョンボはこう回答している。

「まだ何とも言えない状況。私が判断して何が正しいか決定したい。あるいは、(自分の意思と関係なく)この先何が起きるか分からない。どういう状況になっても状況は受け入れる。このチームに対しては私が最初から最後まで責任を負う考えだ」

 ホン・ミョンボが監督を続ける場合、ロンドン五輪のチームを継続させるのか、破壊するのか。すぐに次のプレッシャー(=来年1月のアジアカップ)が迫る。これが大会後の韓国サッカーのテーマになる。

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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