ザッケローニの退任に思う=日々是世界杯2014(6月25日)

宇都宮徹壱

ザッケローニ監督、お疲れ様でした!

W杯グループリーグ敗退となり、退任を決めたザッケローニ監督(左)。彼の4年間を振り返る 【写真は共同】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の14日目。今日は13時(現地時間。以下同)からはグループFのナイジェリア対アルゼンチン(@ポルトアレグレ)とボスニア・ヘルツェゴビナ対イラン(@サルバドール)、そして16時からはグループEのホンジュラス対スイス(@マナウス)、17時からエクアドル対フランス(@リオデジャネイロ)が行われる。

 クイアバ滞在もついに6日目。本当は、この日の夕方に次の目的地に向かうはずだったが、私の乗る便が早朝に変更になってしまったため、クイアバに来て2度目のホテル移動となった。今度のホテルは、今までで最もグレードが高く、最も料金が安い。つまり、当地でのW杯の日程が昨日ですべて終わり、通常料金に戻ったということだ。
 チェックインしようとすると、大きな荷物を抱えたコロンビア人と日本人の客が次々とホテルを出て行くのが見えた。日本人の団体は、テレビ局のクルーだろうか。クイアバの街が日常に戻る寂しさと、大会から日本がいなくなる寂しさを同時に感じる。

 さて、今回の日本のグループリーグ敗退について、昨日(24日)のコラムで「8年前のドイツ大会と比べて、それほど焦燥感は感じていない」と書いて、その理由についてあらためて記すことを予告しておいた。
 当然、その心づもりでいたのだが、そこに「アルベルト・ザッケローニ監督が退任」というニュースが飛び込んできた。会見は日本代表のキャンプ地であるイトゥで行われたため、あいにく会見には出席できなかったが、やはりこの件について触れないわけにはいかないだろう。とはいえ、今大会の結果とも密接に関わる話なので、その両方について論じたい。

 まずはザッケローニに対し、あらためて「お疲れ様でした」と申し上げたい。これまで一度も海外での監督経験がなかったにもかかわらず、遠く離れた日本で4年にわたりナショナルチームを率いたことについて、いろいろと表には出せない気苦労やプレッシャーもあったはずだ(しかも就任間もない頃には、未曾有の大震災と原発事故もあった)。その間に、11年のアジアカップ優勝、13年のW杯アジア予選突破と東アジアカップ優勝を成し遂げたことについては、評価されてもよいだろう。その他にも、ザッケローニ時代にはいくつもの感動的な試合に立ち会わせてもらった。そのことについては、ひとりの取材者として、ここに感謝の意を表する次第である。

ザッケローニ体制の4年間が意味するもの

クイアバ最後の夜、現地の日本食レストランで食事。厨房のスタッフに感謝! 【宇都宮徹壱】

 さて、ザッケローニの退任と前後して、メディアではすでに後任監督の名前が取り沙汰されている。今のところ具体的な名前が挙がっているのは、元メキシコ代表監督のハビエル・アギーレ、そして現コロンビア代表監督のホセ・ペケルマンだ。

 どこまで現実性のある話なのかは分からないが、いずれも代表監督とW杯での経験が豊富であり、前任者に足りなかったものを埋めようという意図は感じられる。そしてそれは、ザッケローニが最後の会見で語った「今の日本代表に足りないものを新しい監督が埋め合わせ、このチームをさらに強くしていく」という発言とも符号する。

 思えばザッケローニ就任以前の代表監督選びは、「外国人監督は意志の疎通が難しいから日本人監督で」とか、「規律を重んじる監督ではなく、選手の自主性を伸ばす監督を」とか、非常に場当たり的かつトップの鶴の一声で決まってしまうことが、ごく普通に行われていた。

 06年ドイツ大会の時も、グループリーグ敗退で帰国した際の会見で、当時の川淵三郎日本サッカー協会会長の「オシムって言っちゃったね」発言により、ジーコ時代の総括がなされぬままオシムフィーバーに話がすり替わってしまった。ドイツでの惨敗はもちろん悔しかったが、情緒的かつ場当たり的な監督人事がまかり通る状況には、どうしようもない絶望感を覚えたものである。

 それと比較してザッケローニの4年間は、就任決定のプロセスも含めて非常に納得できるものであった。10年南アフリカ大会で日本が達成できたこと、できなかったことを検証し、「弱者のサッカー」を突き詰めるのではなく、「攻撃的なサッカー」という方向性に軌道修正し(これには原博実技術委員長の意向がかなり反映されていたわけだが)、それに合致する候補者をリストアップして交渉した末に、ザッケローニ招へいに至ったのである。
 こうして書くと、至極当たり前のように感じられるかもしれないが、10年の段階まで、その当たり前のことができていなかったのが、この国のサッカー界の現状であった。

 ゆえに私は、今回のグループリーグ敗退については、少なくとも06年の時のような「焦土」の状態とは考えていない。ようやく当たり前のプロセスを経て、「これは」という指導者を招へいし、「攻撃サッカー」という方向性を積み重ねての最初の4年間の結果としては、ある意味「順当」とも言えるからだ(もちろん悔しい思いもあるが)。これで敗因についての検証がなされず、また違ったタイプの監督を呼んで方向性がブレるようだと困るが、次の4年間でさらなる改善と進化がなされたならば、ブラジルでの蹉跌(さてつ)は決して無駄とはならないはずだ。

 そして4年後のロシアで、今度は攻撃的なサッカーで日本がベスト16入りを果たしたなら、その礎(いしずえ)となったザッケローニ体制も、きっと再評価されるのではないだろうか。そんなわけで、今はメディアにたたかれているザッケローニが、4年後にどんな評価をされているのか、今から密かに楽しみにしている。

<つづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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