「ドルトムントの夜」を思い出した敗戦=日々是世界杯2014(6月24日)

宇都宮徹壱

「われわれはこの大会を楽しむ必要がある」

コロンビアに1−4で敗れ、グラウンドに崩れ落ちる日本代表の選手たち 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の13日目。今日は13時(現地時間。以下同)からグループCのイタリア対ウルグアイ(@ナタール)とコスタリカ対イングランド(@ベロオリゾンテ)、そして16時からは日本対コロンビア(@クイアバ)、17時からギリシャ対コートジボワール(@フォルタレーザ)が行われる。以前にもお伝えした通り、クイアバはフォルタレーザよりマイナス1時間の時差があるため、結果として同時刻でのキックオフとなる。

 すでに決勝トーナメント進出を決めているのは、コスタリカとコロンビア。2敗したイングランドを除いて、残りの5チームにチャンスが残っているため、いずれの試合もスリリングな展開となるはずだ。そして、ここクイアバで行われる日本対コロンビアも──。
 キックオフ3時間半前に、会場のアレナ・パンタナールに到着。会場周辺は、すでに多くのコロンビア人サポーターで埋め尽くされている。その表情は、いずれも自信と喜びに満ちていた。ふと、前日会見でコロンビア代表のホセ・ペケルマン監督が「われわれはこの大会を楽しむ必要がある」とコメントしたことを思い出す。何気ないフレーズだが、彼らが味わってきた挫折と復活の20年間を思えば、深くうなずくしかない。

 今から20年前の1994年のW杯米国大会。“サッカーの王様”ペレをして「今大会の優勝候補」と言わしめた当時のコロンビア代表は、カルロス・バルデラマ、ファウスティーノ・アスプリージャ、フレディ・リンコンらを擁するタレント軍団であった。

 しかし結果は、1勝2敗のグループリーグ敗退。米国戦で痛恨のオウンゴールを献上してしまったアンドレス・エスコバルが、帰国後に射殺されたのはあまりにも有名な話だ。先月、取材でコロンビア大使館を訪れた際に、領事にエスコバルのことを尋ねてみた。すると、それまで快活に話していた彼の表情はみるみる曇り、「すまない、その件についてはノーコメントだ」と答えるのみであった。20年が経過した今でも、かの国において、エスコバルの名がタブー視されていることに、少なからぬ衝撃を覚えたものだ。

 コロンビアは4年後の98年大会にも出場するも、ここでも精彩を欠いてグループリーグ敗退。以後は3大会続けて南米予選で苦杯を味わい続けた。そして今大会、アルゼンチンの名将であり、希代のモチベーターとしても知られるペケルマンを指揮官に迎えたコロンビアはかつての輝きを取り戻した。

 43歳のベテランGK、ファリド・モンドラゴンを除いて全員がW杯未経験という若いチームは、初戦のギリシャ戦に3−0、続くコートジボワール戦にも2−1で勝利し、早々にグループリーグを突破。しかし、だからといって、この日本戦で手を抜くことはない。グループを1位で通過すれば、次はマラカナンの大舞台で試合ができるのだ。今のコロンビアにとって、「大会を楽しむ」要素はいくらでもあり、それこそが彼らの躍進の原動力となっているようにも思える。

「8年前」に重なることと異なること

スタジアムに向かう途中で出会ったコロンビアのサポーター。向こうではかなり有名な人らしい 【宇都宮徹壱】

 対する日本はどうか。「大会を楽しむ」どころか、思ったようなサッカーができずに悶々(もんもん)としているというのが実情である。アルベルト・ザッケローニの「われわれがこれまでやってきたことができなかった。これには驚いた」という言葉が、すべてを物語っている。

 またこの2戦の展開が、8年前のドイツ大会に重なって見えるのも気になるところ。先制するも瞬く間に逆転されたオーストラリア戦(1−3)、そして必勝を期して臨んだもののビッグチャンスを逃してスコアレスドローに終わったクロアチア戦(0−0)の記憶がよみがえってくる。

 ただし第3戦については、8年前の「他力+ブラジル相手に3点差以上」に比べると、今回はギリシャ対コートジボワールの試合結果次第ながら、それほどハードルは高くないようにも思える。加えて、選手たちのフィジカルコンディションが何人かを除いて総じて良好なこと、選手間のコミュニケーションが傍から見ていて決して悪くないこと、そして何より、過去5大会で歴代日本代表が積み重ねてきた経験をチームとして共有していることも、この機会にあらためて指摘しておくべきだろう。

 確かに現在のチームで、8年前のドイツ大会を経験しているのは、遠藤保仁のみである。しかし前回大会を経験したメンバーは、06年大会の反省を踏まえてチームが結束することの大切さを学んでおり、その意味で日本代表としての経験値は間違いなく受け継がれている。そして、それは見る側、すなわちわれわれメディアや応援するファン、サポーターの間でも、本来共有されるべきものではないだろうか。

 さて、この試合でザッケローニが選んだスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、長友佑都。中盤は守備的な位置に長谷部誠と青山敏弘、右に岡崎慎司、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そしてワントップに大久保嘉人。前回のギリシャ戦から香川がスタメンに復帰。そして、これまでボランチの主軸だった山口蛍に代わって青山が今大会初出場となった。大久保はスタートからワントップでの起用。「より攻撃的に」という指揮官のメッセージがひしひしと伝わってくる布陣である。

 対するコロンビアは、何と8人ものメンバーを入れ替えてきた。ここまで2ゴールを挙げているハメス・ロドリゲスやテオフィロ・グティエレスをはじめ、多くの主力選手がベンチスタート。今大会初出場の選手は4人を数える。これを有利と見るかどうかは、やはり試合が始まってみないと分からない。16時、定刻通りキックオフ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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