東海大、原貢氏にささげる涙の日本一=全日本大学野球選手権・総括

松倉雄太

3年生主将を中心に泥臭く戦った神奈川大

 惜しくも準優勝に終わった神奈川大。出場24回を誇る名門も、今回は6年ぶりの出場。近年は桐蔭横浜大の台頭もあり、リーグ戦では6季連続4位以下という成績が続いていた。古川祐一監督はチーム改革の一つとして、3年生の胡麻裕宜(広島・総合技術高)を主将に抜てきした。「ビックリした」という胡麻を中心に、高校野球のように泥臭い野球を目指してチームはまとまった。3年生主将を支える4年生、下級生も熱い。ベンチでは2年生の井原純希(広島・瀬戸内高)と鈴木郁巳(茨城・水戸葵陵高)が一番前で大きな声を出して、グラウンドでプレーする選手を鼓舞した。

「(決勝は)厳しい状況だったが、ベンチから良い声が出ていて、上級生から下級生までみんな粘り強く戦えた。負ける気はしなかったです」と話した主将は、敗戦後に涙を流した。

 エース左腕の濱口遥大(2年、佐賀・三養基高)が成長したのも大きい。2回戦では慶応大を1点に抑えるなど、4試合32イニングを投げて防御率1.13。堂々の敢闘賞受賞だ。決勝では大城卓に2本のタイムリーを浴びたが、最後の打席では、前の打席で打たれた変化球で勝負して見事に内野ゴロに打ち取った。「9回にしっかり粘れたのは自信になる」と、勝負に敗れた中でも、手応えを感じたようだった。

154キロ右腕・田中正義をプロのスカウト陣絶賛

今大会で自己最速の154キロをマークし、大会特別賞を受賞した創価大・田中 【島尻譲】

 大会を沸かせた選手の一人が創価大の田中正義(2年、東京・創価高)だ。大会初日に佛教大を相手に無四球で4安打完封。公式戦では自己最速となる154キロを計測した。岸雅司監督は、「全国にお披露目できてうれしいですね」と語り、田中のピッチングを見たプロのスカウト陣からも、「すごい投手が出てきたね」と絶賛の声。阪神・中村勝広ゼネラルマネージャーなど編成部門のトップクラスも視察に訪れた。

「直球は思い切って腕を振って投げれば、あまりヒットにされることはなかったので、自信になります。ただ、直球が走らない時に自分のピッチングができなかった。これからいろんな引き出しを増やしたい」と手応えと課題を話した田中。今大会の好投を受けて、20日から始まる大学日本代表選考合宿に追加招集されることも発表されている。

 もう一人ここで紹介したいのが、九州産業大の浜田智博(4年、宮崎・宮崎工高)。独特のテークバックから、140キロを超える直球と鋭い変化球が武器の左腕で、今年のドラフト候補に挙がっている。視察したスカウトからも、「好みが分かれるかもしれないが、良い投手だね。武田勝(北海道日本ハム)のように、もっとリリースの際に腕が隠れるようになれば、さらに良くなる」という声が聞かれた。本人も、「プロ一本で考えています」と、高校時代は志望届を提出しながら指名がなかっただけに、今度こそプロへという思いを語った。

東京六大学と東都が初戦で散り、各チームが頂点を狙った

 大会2日目。シード校として登場した慶応大と亜細亜大が初戦で敗れた。大学野球界を引っ張ってきた東京六大学と東都の代表校がそろって初戦で敗れたのは、23年ぶりのことだ。破った神奈川大と創価大以外のチームの指揮官も、その瞬間から意識が少しずつ変化していった。

 福井工業大の下野博樹監督が語る。
「2つ(慶応大と亜細亜大)がいなくなって、頂点をとるためには今年がチャンスだと思った」

 投手の起用法やゲームの戦術が、はっきりと優勝を狙うためのものに変わっていった。逆に敗れた東京六大学と東都は、秋の明治神宮大会がリーグとしての威信を懸けた戦いになってくる。そして優勝した東海大、準優勝の神奈川大、ベスト4に残った創価大は、秋の出場を目指すにはリーグ戦を勝ち抜き、関東大学選手権の2枠(決勝進出が条件)に入らなくてはいけない。つまり、この中の1校は確実に秋の神宮に出ることはできない。

「負けっぱなしで終わるのは悔しい。関東(大学選手権)で当たると思うので、次は負けないように強いチームを作りたい。そのためにはまず秋のリーグを勝つことを目指したい。厳しい戦いになる」と神奈川大の胡麻主将は言った。

 4年生にとっては最後となる秋の神宮の頂点を目指し、各チームは試練の夏に入る。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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