ザンビア戦で得た手痛い教訓 逆転勝利に楽観視できない3つの留意点

宇都宮徹壱

ザックが「今日のゲームには満足していない」理由

大久保(青)の劇的弾でザンビアに勝利。2点差を見事に逆転してみせたが、大味な内容に不安が募る 【写真:ロイター/アフロ】

 結局のところ、この試合に両チーム合わせて7つのゴールが飛び出すことを、試合前にどれだけの人々が想像できただろうか。序盤、立て続けに2失点を喫した日本は、前半アディショナルタイムに幸運なPKをゲット(ペナルティーエリア内での香川のクロスが相手DFの手に当たった)。これを本田が冷静に決めて日本が1点差に詰め寄る。

 後半、日本は柿谷を下げて、大久保嘉人を投入。後半29分には、中央に走り込んだ大久保への香川のクロスがそのままゴールに吸い込まれ、日本は同点に追いつく。そのわずか1分後には、途中出場の森重真人(後半15分に今野と交代)が右サイドを駆け上がり、巧みな切り返しから中央に折り返し、最後は本田がスライディングで押し込んで逆転に成功。
 このまま日本が逃げ切るかと思われた後半44分、ザンビアは最後の力を振り絞ってルバンボ・ムソンダが渾身のミドルシュートを放ち、これが山口に当たってコースが変わり、西川の頭を越えてゴールへ。土壇場で試合を振り出しに戻した。
 しかしアディショナルタイム1分、やはり途中出場の青山(後半45分に遠藤と交代)が、ファーストタッチで前線に長いパスを放ち、これを大久保が流れるようなモーションでトラップからシュートに持ち込んでネットを揺らす。結果、4−3で日本が勝利した。

「チームのロジックに従えば勝利につながるし、逆の場合は敗北の可能性は高まる。この試合については結果うんぬんではなく後者だった。(中略)これまでにも世界の強豪相手に勝ってきたが、そういった試合は振り返ってみるとロジックがしっかり伴っていた試合だった。その意味では、今日のゲームには満足していない」(ザッケローニ)

 これまでは「失点しても、それよりも多くの得点で勝利すれば良い」と公言してはばからなかった指揮官も、さすがに本番直前でのこの大味な試合展開には危機感を抱いたようだ。さて、ザッケローニが言う「ロジック」とは、これまで彼がたびたび口にしてきた「インテンシティー」と置き換えてよいだろう。では、「インテンシティー」とは何か。ザッケローニの言葉によれば、以下のようなものになる。

「ボールを持っているときは、前線での動きが活性化して、ボールがスピーディーに回る状態。当然、ボールの動き、人間の動きが、相手に的を絞らせないようにすることがひとつ。逆に守備のところでは、アグレッシブに行ってボールをいかにうまく奪い切ることができるか。それが私が考えるインテンシティーだ。ただ誤解してほしくないのは、ボールをひとりで奪いに行くのではなく、チームが連動して奪いにいくということだ」(ザンビア戦の前日会見より)

 皮肉にも、この試合でザッケローニが言うところの「インテンシティー」を発揮していたのは、むしろザンビアのほうであった。ザンビア代表のパトリス・ビューメル監督は、この日本戦について「相手はいいチームなので、こちらのポゼッションが難しくなると考え、選手にはプレーをコンパクトにすること、そしてプレッシャーをかけてボールを奪ったらコンパクトにゲームを進めるように伝えた」と語っている。実際、前半はビューメル監督の言葉どおりの展開で、ザンビアが日本を圧倒していた。

日本の勝利を喜べない3つのエクスキューズ

攻撃陣に期待は持てるが、守備に人的オプションが見当たらず。本田(左)も「3失点したらコートジボワールから4点取れる可能性はゼロに近い」と語っている 【写真:ロイター/アフロ】

 後半の日本の反撃を見て、「それほど心配する必要はないのではないか」と感じた人も、もしかしたら少なくないのかもしれない。確かに日本の攻撃面については、私自身もあまり心配していない。しかしながら、コスタリカとザンビアに劇的な逆転勝利を収めたことについては、少なくとも以下の3つのエクスキューズが必要であることは留意すべきであろう。

(1)相手がインテンシティーに根ざしたプレーを90分間、持続させるための戦術と体力がなかったこと。
(2)親善試合ゆえに6枚の交代カードを切ることができたこと。
(3)今の日本は戦術的なオプションが極めて限られているため、とにかく攻め続けて勝ち切る選択肢しかないこと。

(1)については、多少はポジティブに考えることも可能だ。日本がこの4年間で突き詰めてきたパスサッカーは、相手を消耗させる効果も持ち合わせており、コスタリカもザンビアも結果としてこの術中にはまった。ただし本大会で戦うW杯出場国にも通用するかというと、いささか心もとないと言わざるを得ない。

(2)については、いささか心配している。現在の日本代表の陣容を見るに、おそらく本番では、ワントップとボランチでの交代で2枚のカードが必要となるだろう。前者は核となる選手がまだ固定されておらず、後者は遠藤にフル出場を求めるのは難しいからだ。そして、不測の事態に備えて「もう1枚」となると、戦術的なオプションは自ずと限られたものとなるだろう。

 そして(3)。現状の日本には、攻撃のオプションがあっても守備の人的オプションが見当たらない。誰かにアクシデントがあれば、ユーティリティーのある選手がそこを埋める、それだけだ。この2試合で、攻撃の人材にダブつきが次第に明らかとなる中、「せめてボランチの人材を1人入れておけば」と、今さらながらに痛感する。また、いくら日本の攻撃陣に期待が持てるとしても、コートジボワールやギリシャを相手に今回のような逆転劇が可能かと問われれば、いささかの疑問を抱かざるを得ない。この日、2ゴールを挙げた本田も「3失点したらコートジボワールに4点を取れる可能性は、おそらくゼロに近いと思う」と率直に語っている。

 どんなに破壊力のある矛(ほこ)があっても、盾(たて)なしには戦えない。その歴然とした事実を知らしめてくれたザンビア代表に、私たちは感謝すべきであろう。かくして、タンパでの合宿は終わった。運命のコートジボワール戦まで、あと1週間である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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