オシムさんとW杯―元通訳・千田氏が語る 監督としての苦悩、日本へのメッセージ

千田善

選手として「ムンディアリスタ」にはなれず

日本のファンに、代表を「応援してあげてほしい」とメッセージを送るオシムさん 【Getty Images】

 さて、現役時代のオシム選手は、ユーゴスラビア代表としてプレーしたものの、W杯出場経験はない。五輪には出場(64年の東京大会が代表デビュー)、68年の欧州選手権ではベスト11に選ばれている(この大会でユーゴスラビアは準優勝)ものの、W杯は66年イングランド大会、70年メキシコ大会とも、ユーゴスラビアが欧州地区予選で敗退し、本大会には出場できなかった。

 その後、ユーゴスラビアは74年西ドイツ大会に出場するが、当時は国外でプレーしている選手は代表に招集しない不文律があり、フランスで活躍していたオシム選手には声がかからなかった。

 旧ユーゴスラビアではW杯のことを「ムンディアル」と呼ぶことがある。スペイン語の「コパ・ムンディアル(W杯)」からの通称で、出場経験のある選手は「ムンディアリスタ」と呼ばれ、尊敬を集める。選手としてはムンディアリスタになれなかったオシムさんにとっても、W杯は「特別な大会」だ。

 今回のブラジル大会は、現地には行かず、故郷のサラエボか、自宅のあるオーストリアでテレビ観戦すると決めている。

「代表チームに同行すると、選手や監督はともかく、マスコミのみなさんから“アドバイス”やら“コメント”やらを求められて落ち着いて見ていられないからね」というのが5月末の壮行会での弁だった。「それに、ボスニアは初出場だから過度の期待は禁物だ」。

「いち日本ファンとして声援を送る」

 もちろん日本代表にも注目し、応援している。

「最近は欧州でプレーしている選手が増えたから、以前とは少し変わってきているのかもしれないが、周囲の期待や重圧を必要以上に気にするのが日本人選手の弱点だった。責任感が強いのは悪いことではないが、雑音は気にせず、チームのために集中したらいい。大きな大会でもっとも大切なのは平常心。どれだけ普段通りの実力が出せるか。緊張もほどほどに、リラックスしながら準備すること。そして本番ではチャレンジャーとして、のびのびプレーすればよい」と語っている。

──何か、日本のファンへのメッセージはありますか?

「みなさんは、(アルベルト・)ザッケローニ監督と選手たちを信じて応援してあげてほしい。自分もいち日本ファンとして声援を送る。ボスニアの試合を見ることがあったら、彼らも応援してやってほしい」

 日本対ボスニアが実現したら、オシムさんはどっちを応援するだろうか。組み合わせ上、グループC(日本)とF(ボスニア)からの勝ち抜けチームは、準決勝までは対戦しないが、そうなったらいいなと、筆者は妄想をたくましくする毎日である。

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