メジロドーベルからショウナンラグーンへ=吉田豊と大久保洋師“最後のダービー”

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10年ぶりのダービー挑戦

大久保洋吉調教師にとっては04年ハイアーゲーム以来10年ぶりのダービー挑戦 【netkeiba.com】

 そのドーベルが蹴り跡をつけた馬房に、今はショウナンラグーンが入っている。

「ドーベルもラグーンも同じ厩務員(安瀬良一さん)です。もちろんシャレードも担当していましたしね。厩務員も同じ気持ちなんですよ。シャレードの時の悔しさがあっただろうし、その子供が厩舎に入ってきたら、また安瀬にやらせるつもりでいましたから」

 ジョッキーも厩務員も、ドーベルの栄光とシャレードの挫折を味わい、大久保洋吉厩舎最後のダービーで再び栄光の舞台に立とうとしている。

「ハイアーゲーム(2004年、3着)以来、10年間ダービーに出走させられませんでしたからね。この世界、皆ダービーを目標にやっていますし、ダービーがあるからこそ、この仕事を続けていられるというのもあります。だからこそダービーに出る、そして勝つというのは競馬に携わっている人、皆の夢だと思います。それだけに最後のチャンスに、ウチの厩舎に1番縁のある馬で出られるというのは格別ですね」

 しかしその語り口には、気負いは感じられない。

「そりゃ若い頃は失敗もありましたけど、長くやっていますからね、ダービーだからと言って特別変わったことをやるわけではなく、自分の馬をベストに仕上げて、乗り役もベストの競馬をする……ということだと思いますね」

京成杯での大敗が転機に

恩師最後のダービーへ「悔いの残らないように」と闘志を燃やす吉田豊 【netkeiba.com】

 1994年のデビュー以来、大久保洋吉厩舎に所属し続けている吉田豊騎手にとって、今回が師匠とともに挑む最後のダービーとなる。その大一番で厩舎縁の血統のショウナンラグーンで臨むというのは、格別な思いがあるはずだ。

 デビュー時のラグーンは、まだ幼さがあった。
「まだ力がなくて、ゆるい馬だなというのが最初に跨った時の印象でしたけど、柔らか味はありましたので、しっかりすれば良くなりそうだなとは思っていました。ただ何かあるとパニックになったりしていたので、無事に使えるかな? と不安もありましたが、8月の函館で無事デビューできました」

「デビュー戦(7着)の後はトモが疲れて放牧に出ました。厩舎に戻ってきてからは子供っぽいことをやらなくなってきて、乗り手の指示にも従うようになってきましたし、調教でも動くようになってきてくれましたね。そういう意味では、だいぶ大人になってきたのかなとは思いました」

 ほんの数か月で、ラグーンは心身ともに成長を見せて、12月の未勝利戦で初勝利を挙げた。
「どのくらいやれるかなと思ったのですが、すんなり勝ってくれましたから、その後も思ったよりも使い詰めにならなくて良かったと思います」

 未勝利戦を勝ってすぐ重賞に臨んだのも期待のあらわれだっただろうが、そこでは思わぬ大敗を喫してしまう。

「2戦目がある程度の位置につけて勝ったので、京成杯でも良い位置でレースをしようと思ったら、他の馬にこすられて掛かってしまって、3番手に行ってしまったために、4コーナーではもう手応えがないような状態でした。ただ掛かったのはあの時だけですけど、意識的におさえる競馬をするようにしたら、その後の500万下が良い脚を使ってくれましたので、おさえて終いを生かすという形になってきました」

 京成杯での失敗を教訓に、末脚を生かす競馬をするようになった府中の一戦が、ラグーンの転機となったようだ。

「京成杯ではこすられて掛かりましたが、本来は折り合いには苦労しないところが長所です。馬の後ろに入ってしまえば、そこにいようという感じですね。ただ意外と前に出たがらないところがありますから、勝ち味に遅い馬だろうなという感じはありました。500万下の3戦の3、2、3着という成績もそのせいかなとも思います」

 その勝ち切れなかった馬が、重賞の青葉賞で、しかもダービートライアルという大事な一戦で、2着馬をアタマ差交わして勝ってしまったのだ。

「相手なりに走るというイメージはありましたが、青葉賞では最後でキッチリ交わしてくれましたからね。ただ勝つにしてもあんな感じなんですよ。2、3馬身離すというタイプではないと思います」

恩師のラストチャンス「悔いの残らないように」

調教師と騎手、そして厩務員も祖母ドーベル、母シャレードと同じ……人馬のドラマの結末は? 【netkeiba.com】

 祖母・メジロドーベルとショウナンラグーンに共通点があるのかどうかも、気になるところだ。

「ドーベルは最初、切れる脚を使ういかにも牝馬らしい馬でしたが、どんどんパワーがついていって、力強くなっていきました。2歳夏からの1年間くらい、体もパワーもとにかくすごく成長しました。レースに出走するたびに、大きくなっていきましたからね。それに比べてラグーンは、柔らかくて、手先が軽くて、いかにもシャッという脚を使えそうな感じがします。これにドーベルの成長力が備わってくれれば、いいなと思っていますが、いかにも成長してきそうなゆるさなので、そのあたりにも期待ですね」

 そして吉田自身が大久保洋吉厩舎の馬でダービーに出走するのは、1996年のトピカルコレクター以来2度目となる。

「厩務員の安瀬さんとは、古馬になったら間違いなく走るだろうけど、その頃にはもう大久保厩舎所属ではないんですよねと、話をしていたんですよね。それがこんなに早く結果を出してくれて、しかもダービーですからね。先生の最後のダービーで、ドーベルもラグーンの母のメジロシャレードも担当していた厩務員さんと、そして僕が騎乗して出走できると、考えれば考えるほど良かったなと思います。あとは悔いの残らないように、ダービーに臨みたいと思っています」

 綿々と受け継がれてきた厩舎ゆかりの血統、調教師にとってラストチャンスとなったダービー、師弟の絆、祖母、母、子と担当してきた厩務員、そして大久保洋吉厩舎最後のダービーに団結する厩舎スタッフ……最近希薄になりつつある、人と馬が織りなすドラマがここにはある。

 ショウナンラグーンがダービーの切符を手にした時に、競馬の神様は本当にいると思わずにはいられなかった。ダービー当日、ショウナンラグーン陣営に再び競馬の神様は舞い降りるのだろうか。運命の日が迫っている。

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