アタッキングサードでの崩しは世界一! AFC技術スタッフが日本を評価する訳

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国内組中心のメンバーで優勝を果たした昨年の東アジアカップ。ギャリー氏は「非常にプレーすることをエンジョイしていた」と評価する 【Getty Images】

 2012年、イングランドサッカー協会(The FA)は、プレミアリーグにおけるイギリス人監督の減少を危惧し、自国の指導者養成プログラム“エリートコーチズアウォード”を実施した。このプログラムを受けるには、過去10年間でUEFA(欧州サッカー連盟) Aライセンスを取得した40歳以下のイギリス人であることが必須条件。さらに、プログラム委員会が「近い将来に非常に高いレベルのチームを監督するであろう人材」と判断し、相対的に評価が高かった18名が選ばれた。そんなサッカーの母国イングランドの将来を担う一大プロジェクトの狭き門を潜り抜けた“エリートコーチ”の一人に、現在AFC(アジアサッカー連盟)とEAFF(東アジアサッカー連盟)のテクニカルスタッフとして活躍するギャリー・ホワイト氏がいる。別の顔は、現グアム代表監督。これまでバージン諸島やバハマなどで代表監督を歴任し、グアムを含むすべての国で、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングを急上昇させてきた。

 AFCテクニカルスタッフとして、昨年の東アジアカップの日本代表戦を全試合視察した経験を持ち、日本サッカー、ひいてはアジアサッカーを熟知するギャリー氏。イギリス人の監督の目には、ブラジルワールドカップ(W杯)に臨む日本代表はどう映っているのか。現在の日本代表を分析してもらった。

日本は監督のやりがいがある国

――日本との関係について教えてください。

 現在、グアムサッカー協会(GFA)と日本サッカー協会(JFA)は非常に近い関係にあります。GFAはグアムサッカー界を発展させるために、JFAをモデルケースとしています。そのために、JFAと話し合いの機会を持つことがあり、たびたび来日しています。

――日本のことがすごくお好きと伺いしましたが。

 ダイスキ!(日本語で)

 12年にグアム代表監督になった際、4月にJ−GREEN堺でアジア各国の監督・コーチをJFAが招いた会合があり、それが初めての来日でした。
 これまでキャリアを通していろいろな国を旅してきましたが、日本は文化的な部分でも非常に独特な所があって、そこに恋をしました。

――日本代表のサッカーを初めて見たのはいつですか?

 欧州の選手がJリーグでプレーした時など、子どものころからよく見てはいました。ですが、やはり近年国際的に日本の選手がインパクトを残していることでさらによく見るようになりました。
 一般的には、やはり02年のW杯日韓大会をきっかけに、日本・アジアのサッカーマーケットはリスペクトを受けることになったのではと思います。

――日韓W杯から日本サッカーに注目したということ?

 “エリートコーチズアウォード”というFAの指導者養成プログラムが実施され、参加したことが日本サッカーを注目するきっかけとなりました。このプログラムの課題として、「トップレベルの試合10試合を選んでフルの分析をしなさい」というのがありました。他の参加者たちはバルセロナの試合など(欧州の試合)を選んだのですが、私はJリーグの横浜F・マリノスの試合を分析しました。

 マリノスの練習を見た中で非常に印象に残ったのは中村俊輔選手。まさに若い選手の手本でした。練習後も最後まで残ってフリーキックを練習していて、評判などは聞いていましたが、彼のすごさを実感したことに加えて、規律という面で日本人のポテンシャルを感じることができました。

 (日本人は)コーチの話を良く聞きますし、非常にハードにプレーするし、クリエイティブです。そのような特徴を見るにつれて、監督をやることの楽しみを非常に見いだせる日本人の気質があると感じました。個人的には将来Jリーグで監督をやりたい希望もあります。

ザッケローニは国民性を深く理解している

日本代表がフィニッシュの精度を欠くことよりも、「多くのチャンスを作っていることを評価するべき」と持論を展開 【スポーツナビ】

――海外のチームで昔ベンゲル監督などは「規律」というものを大事にしていたと思います。日本人は言われずにも守るという面がありますよね。

 監督の重要な役割として、ただチームを形成するだけでなく、人を見るということもあります。優秀なコーチというものは、文化的な背景などの特徴をサッカーに活用することによって、チーム・個人の力を最大化し、それ以上のものを作り上げるのが優秀なコーチだと私は考えます。

 先週中国に行って電車に乗ったのですが、電車の乗り降りの際に、降りる人を待たずして人が乗ってきたことがありました。日本人は必ず待つと思います。これはもうDNAに刻まれたものであると思います(笑)。

 私の印象として、例えばグアムは非常に小さな国ですが、国民性としてはチャモロ族なので非常に誇り高く闘争心が強いです。
 (歴史的にサッカー途上国であるが故に)グアムにはネガティブなサッカーをやらざるを得ない文化的な部分があり、なるべくコンパクトにして、ボールを自陣から排除し、できるだけ下手に思われないようなサッカーをすることがグアム代表の特徴でした。

 しかし、彼らにはチャモロ族の闘争心がありますから、(彼らを指導する上で)メンタリティーの部分の転換から私は着手しました。自分たちのプレーをする上で「信じる」「恐れない」「相手よりもうまくプレーできる」というメンタリティーを植えつける。さらに(サッカーに対する)先ほどの文化的な部分、国の歴史的理由であったりを加味し、彼らにメンタリティーのスイッチを入れることができました。明らかに、メンタリティー、信念、哲学、チームの文化が変わったと思います。その結果として、私がグアムの代表監督に就任してから2年経ったのですが、その間にFIFAランキングを「35」上昇することができました。
 そういった国民性をサッカーに反映させていくことが非常に重要で、それが(アルベルト・)ザッケローニ監督が日本代表にやっていることなんじゃないかと思います。日本人というものに深くコネクトして(関わりあって)、理解をして、向学心が高いという特徴をうまくコーチングに用いている。それが今(ザッケローニ監督が)結果を収められている要因のひとつだと思います。

 コーチングをする上で一番大事なところは、国民性の中でとりわけポジティブな部分を活用することです。外国人監督というのは、特にそういう資質が求められるんだと思います。

――日本で言えば02年トルシエ、06年ジーコ、今ザッケローニとW杯に臨む外国人監督としては3人目ですが、ザッケローニ監督が一番日本と合っているように思いますか?

 02年・06年のチームは、日本のレベルをもっと前進させるということに重きを置いているチームでした。今ザッケローニになって、当時に比べて選手の技術も上がっているし、コーチングプログラムも進んでいるし、選手自体ももっとゲームを理解している。レベルが高くなっている中で、ザッケローニは監督として素晴らしいマネージングを実施していると思います。

 去年の東アジアカップの時、AFCとEAFFに試合の分析を依頼され、その大会で日本の試合をすべて見る機会に恵まれました。日本の試合を見て感じたのが、Jリーグのメンバー中心の代表であったとしても、非常にプレーすることをエンジョイしているということを感じました。
 ザッケローニは人と深くコネクトする面で、非常にポジティブな繋がりを持っていると思います。

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