奈良くるみ、4年ぶりの全仏に見た成長 躍進生んだ“苦手のクレー”で得たもの
序盤は攻めるも突き放せず
世界7位のヤンコビッチ相手に、奈良は序盤こそ攻めたが突き放すことはできなかった 【Getty Images】
「センターコートと聞いた時は、正直びっくりした」と奈良は言う。子供の頃からテレビで見ていた、テニス選手にとって最高の舞台。実際にその場に立った時に去来した思いは、「テレビ中継されてるんだよな……。自分は、どんな風に映っているのかな」だったというのだから、初々しくも肝が据わっている。
「センターコートの緊張感より、勝ちたいという緊張の方が大きかった」
そう振り返るほどに、善戦ではなく勝利を欲した奈良。その覚悟は、試合開始直後の攻撃的姿勢となって、155.5センチの小さな体からあふれ出る。フォアで互角に打ち合い、先にストレートに展開する。相手の体勢が崩れると見るや、コート深くに踏み込んで、浮いた返球をスイングボレーでたたき込む。奈良がこの2年間、取り組んできた「コートも頭の中も広く使う」プレーは、世界最高峰の赤土のコートで、世界7位を慌てふためかせた。
ただ、結果論ではあるが、畳みかけるように攻めた立ち上がりで、相手を突き放さなくてはいけなかった。第2ゲームでは、ブレークポイントで決定的なチャンスボールも得ている。だが、ここで放った渾身のショットは、山を張ったように動いたヤンコビッチの正面を突き、ボレーで決められてしまった。
その後は並走状態が続いたが、ゲームカウント5−5からのサービスゲームで、2度のデュースの末についに奈良がブレークを許す。57分を要した第1セットを手にしたことで、世界7位は心身の余裕を得た。第2セットは、攻める奈良のショットが少しずつラインを割り、最終スコアは5−7、0−6だった。
強者を倒すべくリスクをとった勲章は、相手の14本を上回る17本のストロークウイナー。代償は、ミスの少ない奈良には珍しい、26本のアンフォーストエラーである。
センターコートで戦えるシード選手を目指して
試合後の奈良は、必要以上に悔しがるでも、かといって序盤の互角以上の展開に満足感を見せるでもなく、客観的に試合を分析した上で、自身の立ち位置を再確認しているようだった。今の彼女は、世界の44位。他国のトッププレーヤーたちにも、「Kurumi Nara」の名前と顔は広く知られ始めている。プレーヤーズラウンジでも選手たちに声を掛けられたり、練習相手やダブルスパートナーの申し入れを受けることが多くなった。
「すごく気持ち良かった」
初めて立ったセンターコートの居心地をも、彼女はシンプルにそう言い表す。そしてこう言葉を続けた。
「こういうところでプレーできるシード選手になりたい」
今の地位につながる躍進の契機を、彼女は約1年前に、北米のクレーコートでつかんだ。そして今回、世界で最も誉れ高いローランギャロスのクレーコートで、彼女は心に野心の火を灯した。
4年前、プレーヤーズラウンジの隅で居心地の悪さを覚えた少女は、もう居ない。