劇的Vをもたらしたレアル伝統の勝負強さ “アトレティコ”対決制し、デシマ達成

西部謙司

決勝点を生んだディ・マリアとベイルの走力

後半終了間際、セルヒオ・ラモス(右から2人目)が同点ゴールを決める。レアル・マドリーが伝統の勝負強さを見せつけた 【写真:ロイター/アフロ】

 1−1で延長に突入した時点で、すでにアトレティコのスタミナは底をついていたと思う。1週間前のバルセロナとの決戦による疲労、早々にジエゴ・コスタを失い、レアルの猛攻に耐え続け、土壇場で追いつかれたことで精神的にも限界だっただろう。

 延長前半が終わると、シメオネ監督はピッチに入り込んで主審に詰め寄り、何か話していた。アディショナルタイムが長すぎたことに抗議していたように見えたが、それならば延長に入る前に言うはず。おそらく、少しでも延長後半の開始を遅らせたかったのではないかと思う。ルールでは延長戦の前後半の間にインターバルはとらないため、選手の疲労を少しでも回復させたかったのではないだろうか。

 延長後半5分、ディ・マリアの驚異的なスピードと突破力が決勝点をもたらす。GKティボ・クルトワはディ・マリアのシュートをはじいたが、ベイルがヘディングで押し込んだ。疲労困憊(こんぱい)のアトレティコに対して、ディ・マリアとベイルの走力が生んだゴールだった。

 もはやアトレティコに反撃の余力はなく、終了間際にマルセロとロナウドが加点。終わってみれば4−1と大差がついたが、両者の差はわずかだった。

王者レアルの勝因とは

 レアルの勝因は選手層の厚さと、それに伴う戦術の幅だ。

 バージョンアップした“アトレティコ”としてバイエルン・ミュンヘンを破って決勝に進出。そこでの“本家”との対決で苦戦するや、最も攻撃的な戦法へシフトした。あくまでアトレティコとして戦う以外ないアトレティコに対して、レアルは違う顔を持っていた。

 土壇場で追いついたセルヒオ・ラモスの得点は、このクラブの伝統的な勝負強さを表している。ライバルのバルセロナにはない特徴ともいえる。セットプレーから高さを生かした力づくのゴールという点だけでなく、何が何でも勝つというメンタルは、理詰めのバルセロナにはない。

 昨季、ボルシア・ドルトムントと準決勝で対戦しているが、レアルは敵地での第1戦を1−4と落としている。しかし、ホームの第2戦に向けてメディアは「逆転可能」のキャンペーンを展開していた。3−0なら逆転できるわけだが、その根拠は「30分間に1点ずつなら可能」だけで、あとは「可能だ」の一点張り。こうした理屈抜きで勝利を信じられるメンタルは独特である。結果は2−0で決勝進出はならなかったが、あと1点までは迫った。万事理詰めのバルセロナは、バイエルンとの第1戦を0−4で落とした後、ホームでの第2戦も先制されると主力を引っ込めて0−3(計0−7)で敗れている。

 スペインの2強は共通点が多いのだが、メンタルの部分が少し違う。それぞれ長所短所はあるものの、大舞台の土壇場で追いつく精神力はレアルらしかった。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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