闘病1年を乗り越えた“競艇少女” 元水球日本代表・倉持莉々いざデビュー

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元水球日本代表・倉持莉々、1年の闘病を乗り越え5月24日・ボートレース平和島でプロデビュー 【スポーツナビ】

 春はルーキーがデビューを迎える季節。ボートレース(競艇)でも、第114期生27人(女子6人)が、未来の賞金王を目指し、元気よく水面へと飛び出していった。そんな金の卵たちの中で、今回スポーツナビはひとりの女子選手にスポットを当てたい。

オリンピックよりもボートーレーサー

オリンピックよりもボートレーサー、小学5年生からの夢だった 【スポーツナビ】

 倉持莉々(くらもち・りり)。1993年生まれ、今年21歳。ひょっとしたら水泳競技フリークの人は、この名前に見覚えがあるかもしれない。実は倉持は、元水球日本代表でもあるのだ。
「たぶん幼稚園ぐらいのころから水泳を習い始めて、体が柔らかかったこともあって小学4年生のときにシンクロを始めたんです。でも、1歳上の兄が水球をやっているのを見て、水球の方が絶対に楽しい!って思って(笑)。球技が好きだったこともあるんですけど、それで水球を始めました」

 すでにこのころから男子に混じって大活躍。例えるならば、女子なのに少年野球チームのエースで4番という存在。その後も才能と実力をメキメキと伸ばし、中学時代は実家の茨城から埼玉のクラブチームに通い、高校は男子水球部の強豪・秀明英光に進学する。しかし、当然のことながら、高校の部活では女子は男子に混じってプレーすることはできない。しかも、秀明英光高には女子水球部がなかった。そこで倉持は、驚くべき行動力を発揮したのだった。
「部員を7人集めたら女子水球部を作ってもいいと言われたので、選手を集めて部を創設したんです。だから、私たちの代が初代チームになるんですよ」

 創部1年目から、ジュニア世代の水泳競技最高峰に位置する大会であるJOCジュニアオリンピックカップで優勝し、左サイドのエースシューターとして優秀選手賞も獲得。今では秀明英光高の女子水球部といえば、全国大会V常連の名門中の名門にまでなっている。そして17歳のとき、倉持は日本代表に名前を連ね、ロンドン五輪予選にも出場した。

 そのまま水球を続けていれば、オリンピック選手にもなれたかもしれない。しかし、倉持は未練もなくあっさりと水球を辞めた。ボートレーサーになるために、やまと学校(ボートレーサー養成所)の門を叩いたのだった。
「5月にオリンピック予選があったんですけど、同じくらいの時期にやまと学校の入学試験があったんです。大学に行かずに高校3年間で水球は辞めるつもりでいましたし、試験に合格したら日本代表も辞退することは、前もって監督にも相談していました。チームメートも監督もすごく応援してくれたんです。私の中ではオリンピックよりもボートーレーサーでした」

43倍の難関突破も…入学1週間前に難病が判明

練習中、何度も先輩レーサーたちからのアドバイスを聞く倉持 【スポーツナビ】

 スポーツ選手なら誰もが憧れるオリンピックよりも、プロのボートレーサーになりたい――倉持がボートレースに強い憧れを抱くようになったのは小学校5年生のときだった。
「小さいころから、ボートレース好きの父に『お前は将来、ボートレーサーになるんだ』と言われ続けてきたんです(笑)。小学校5年生のときだった思うんですが、家から一番近いボートレース戸田に観に行ったときに、その迫力に魅了されてしまいました。すごくカッコいいな、って。それで、中学生になるころにはもう『私はボートレーサーになるんだ!』って思っていましたね」

 倍率約43倍の難関を突破し、2011年10月入学の第111期やまと学校入学試験に合格。明るい未来、そして夢の第一歩へと大きく踏み出したと思った……その矢先だった。まだ10代の高校生にとっては過酷すぎる運命が待っていた。
「5月のオリンピック予選が終わって帰国してから、ちょっと調子が良くないなと思っていたんです。そうしたら、だんだんと体調が悪くなっていって、毎日夜中の3時にわき腹が痛くなって眠れなくなったんです」
 しばらく原因不明の痛みに苦しみ、あらゆる病院で検査を受けた。そして9月20日になって、ようやくはっきりとした診断結果が出たのだが、それは今すぐに治療を必要とする難病だった。やまと学校入学の1週間前だった。
「頭が真っ白になりました。両親も号泣してしまって……。これではやまと学校に入学するのは無理だ、って一番最初に思いました」

 母親は違う将来の道を勧め始め、「たぶん、もうやまと学校には行かせたくなかったんだと思います」。それでも、倉持のボートレーサーへの夢は消えることはなかった。
「病気になってしまったからには仕方ない。すぐに治して、もう1回、学校の試験を受け直さなきゃ」
 そんな娘に、ボートレーサーへの道を示した父も「治せば、また学校に行けるよ」と励ましてくれた。

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