木村沙織も実践したスランプ脱出法=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第7回

高島三幸

人生初のスランプに陥った木村沙織(写真)が実践したスランプ脱出法とは!? 【坂本清】

 2012年ロンドン五輪の銅メダルを始め、眞鍋政義監督のもとで着実に結果を残してきた全日本女子バレーボールチーム。しかし、全てが順風満帆だったわけではない。時には、選手が不調に陥ることもある。そんな時、百戦錬磨の指揮官はどんな行動を取るのだろうか。“眞鍋流”のスランプ脱出法を聞いた。

スランプの原因を探るために大事な2つのこと

 何をやっても結果に結びつかない――。人はそれを「スランプ」と呼びます。調子が一時的に不調になることを言いますが、落ち込む前に原因を探ることが脱出への近道です。単純に練習が足りないのか、メンタルの起因によるものが大きいのか、両者の複合的なものなのか、そうした原因を自ら追求し、納得できる解決策を探る。この作業にモチベーションを傾けなければ、不安は増幅していくばかりです。長引けば心身にダメージを与えて、なかなか脱出できない負のスパイラルに陥ってしまう。問題は小さいうちに解決するのに越したことはありません。

 スランプは、自分でも気付いていないような潜在的意識から生み出されることが往々にしてあります。プレッシャーによる義務感や焦りから、言動に微妙な変化が生じたり、環境の変化が調子を狂わせ、平常心での対応が難しくなったり……。いずれにせよ、そうした原因を探るためには、「振り返り」と「検証」が大事になります。

 バレーで考えると、例えば、ある選手のスパイク決定率が著しく低下したとします。すると、われわれコーチ陣は、好調の時と現在の数字や映像を徹底的に見比べます。特に映像では、助走、ボールを捉える位置、腕を振り上げるタイミングなど、一連の動きを分解するように、一つ一つ検証していく。そして、好調の時との違いから解決につながりそうな仮説を立てます。

 この時点で、選手本人にも映像を見せます。自ら原因に気付くように、コーチ陣の仮説も共有しますが、選手自身が理解し納得するように、分かりやすく説明することが大事です。その手順を踏んだ上で、解決につなげるための反復練習を行う。その時、選手は好調な時のイメージを頭で描けていることがベストです。目指すべき姿をイメージしながら反復練習を重ねることで、練習の質とモチベーションが上がります。

データに基づく具体的な解決策を示す

 ロンドン五輪の1年前に行われたワールドグランプリとアジア選手権で、エースの木村沙織は人生初のスランプに陥りました。相手国から徹底的にサーブで狙われて連続失点し、スパイクまでつながらなくなりました。
 木村は本来、メンタルが安定した選手ですが、自分が「チームの要」という自覚と責任感が強い。しかし、ミスをした時に取り戻そうという気負いと焦りが募り、さらなるミスを招くという負のループに陥っていました。

 各国から狙われるのは日本のエースであり、脅威だと捉えられているからです。「狙われるのは一流の証拠だ」とプラスに捉えられれば、少しは気持ちが楽になると思うのですが、当時の彼女にそんな余裕はありませんでした。また、気持ちの切り替えがあまりうまくないことも、なかなかスランプから抜け出せない原因の一つでした。

 われわれコーチ陣は、あらゆる角度から解決策を探りました。まず、数字の検証です。アナリストに、木村のサーブレシーブの返球率がどれぐらいであれば試合に勝てるのかを分析してもらいました。すると、8割の確率で返球できれば勝てる、という結果でした。
 ロンドン五輪前は、5割の確率で木村がサーブで狙われていました。バレーボールはセットスポーツなので、3セット取れば勝つわけですが、1セット23〜25回程度、サーブレシーブを受ける機会があるとしたら、その半分の12〜13本は木村に集中します。
 そこで、そのうちの8割である「8〜9本をセッターに返せばいい」と、ここまで具体的に提案すれば、木村も理解しやすく、納得しやすい。やるべきことが明確になれば集中しやすくなります。

 木村の要望で夕食後に誰もいないコートに立ち、12本のサーブのうち8〜9本を正確に返球する練習を3セット、毎日続けました。そして試合では「1セットのうち、3本までは失敗してもいい」と伝え、プレッシャーを和らげました。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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