広がりを見せる自衛隊女子サッカー なでしこの活躍による裾野への波及効果

平野貴也

地域の大会に参加するチームも増える

空自築城の佐藤仁さん(左)は、春高バレーの経験者。サッカー経験者は少ないが、他競技で実績のある選手は少なくない 【平野貴也】

 大会への参加や、大会の拡大に対する工夫も出始めている。今大会は基本的に各基地・駐屯地で1チームの編成となっているが、空自管制群チーム(AQUA)は複数の基地から選手を集めた即席チームだった。主将の早田貴美さんは「基地にチームがないために参加できないという管制隊の隊員に出場機会を設けるために作ったチームです。大会ができたときは、時代の流れかなと思いました。私自身は、男性に混じってフットサルをやっていましたけど、女性だけというのはなかなか集まりにくかったですから。競技人口が増えたんだなと思います。これからは、学生時代にサッカーやフットサルをやっていたという若い子が入って来るでしょうね」と6カ所もの基地から女子選手が集まったことに驚いていた。

 また、サッカーをしている娘の相手をするうちに興味を持ち、空自熊谷チーム(CLOVERS)を立ち上げた大友好恵さんは「3年前にプレ大会が行われたときは、すごくうれしかったです。自衛隊の新聞に正式な女子の部開催を希望する記事を出してアピールもしました。男子は自衛隊の中でいろんな競技大会があるのに、女子はまだ少ない。この大会も男子と同じように全国大会の予選ができるようになったら面白いし、チーム数が増えれば転勤しても続けられますからね」と大会の存在価値を強調した。

 女性自衛官の間でフットサルが広まっているという事実は、限られた世界だけの話ではなく、確実に波及効果を生んでいる。統合市ヶ谷チームを立ち上げた郷古さんは、東京都1部リーグに所属する「early.f.t」というクラブチームに参加。また、空自小牧チーム(FC.D.Luce)は、愛知県で開催されている金山レディース大会に参加している。陸自朝霞(SULWAY)は地域交流の意味合いも含めて、近隣にある国際高校と練習試合を組む。空自新田原は、宮崎県大会に出場して全国大会の出場を目指すという。

 つまり、彼女たちの活動は、自衛隊に限定した話ではなく、女子フットサル界の選手やチームの増加につながっているのだ。空自小牧の黒肱若菜さんは、島田プリンセスという静岡県のクラブチームで小学生の頃からサッカーに親しんできた。「今大会は同期の子が多く参加しているので『経験者だったの?』と聞くと『やったことないよ。初めて』と言っていました。きっと、こういう大会を通じて勝ってうれしかったり、負けて悔しかったりしながら、サッカーやフットサルの楽しさを感じてくれると思うので、私はそこに大会の価値を感じています。なでしこジャパンがワールドカップで優勝したからこそ広まってきましたけど、日本の女子サッカー自体がそれまでは本当に大変だったと聞いています。こうやって広まっていくというのは、ずっとサッカーをやってきた自分にとってもうれしいこと。新しい仲間がサッカーとかフットサルを楽しいねと言ってくれるのがうれしいです」と大会を通じて新たな仲間ができる喜びを話した。

トップの活躍が裾野の拡大へと波及する

第2回大会を優勝した空自入間。経験者が多く、大会のレベルを引き上げていた 【平野貴也】

 サッカーが好きな男たちの情熱と、なでしこジャパンの活躍という追い風によって自衛隊大会女子の部は生まれたが、いまでは大会が(強化ではなく、普及の意味合いで)選手やチームを育て始めている。
 プレ大会と第1回大会で優勝していた陸自朝霞チーム(SULWAY)の主将を務める北薗真奈美さんは「チームが増えて大会のレベルが上がったと強く感じました。昨年までは、どこもできたて。手探りで練習していた感じがありました。でも、経験者も入ってきて、練習を積んできたなと感じるチームも出てきていますね」と大会のさらなる隆盛の予兆を感じ取っていた。

 大会関係者によれば、女子の部は参加に関する問い合わせが増えているという。自衛隊という組織自体が大会に注力しているわけではなく、競技に対する情熱を持った隊員が主導し、組織の理解を得て活動しているのが実情だ。

 そのため、告知などが不十分になる部分もある。第2回大会を優勝した空自入間の志田原眞穂さんは、昨年の第1回大会に出場するまで、前年にプレ大会があったことは知らなかったという。しかし、今大会で見られたように、競技の楽しさを知った選手たちが、さらに活動の輪を広げていくだろう。海自厚木チームで部長を務める高野亜希子さんは「厚木に来てからは男子のチームのマネージャーなどをやっていましたけど、こうやって自分が大会に出られるという機会はなかなかなかったので、すごく楽しい。海自はまだ1チームだけなので、ほかの基地にもチームができてほしい」と新チームの参加を呼びかけた。

 自衛隊大会という一種独特な世界観を持つ大会だが、会場となった駐屯地内の体育館には、女子サッカーの「トップレベルの活躍」から「裾野の拡大」へと流れる熱気が満ち溢れていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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