カープ23年ぶりVへ 広島の街は本気 取り戻しつつあるスポーツ王国の誇り

ベースボール・タイムズ

喜怒哀楽をむき出しにチームを鼓舞する指揮官

22日のヤクルト戦で帽子をたたきつけて抗議する広島・野村監督。この直後に打線が奮起し、逆転勝利を収めた 【写真は共同】

 競争が激しくなり好調なチームで、最も変わったと言われるのが指揮官だ。その象徴と言えるのが、4月22日のヤクルト戦。二塁ベース上のアウト・セーフをめぐる判定に、これまでは感情をあまり表に出さなかった監督が帽子を地面にたたきつけて猛抗議。遅延行為として退場処分となった。試合は劣勢の状況だったが、その姿に菊池涼介、丸佳浩らの打撃陣が奮起し、チームは逆転勝ちを収めた。

 思えば、前回のリーグ優勝を果たした1991年、優勝決定直後のグラウンドで行われたビールかけで、先頭に立って音頭をとっていたのが、当時はまだ入団3年目だった野村謙二郎だった。喜怒哀楽をむき出しにして、チームを引っ張った選手・ノムケンを、今回の退場劇で思い起こしたファンも多かったのではないか。

書店でも赤ヘル旋風、「カープ女子」も話題に

 そんなカープの快進撃に、広島の街はいつになく活気づいている。好調なチームを背景に、今年はファンを中心としたその周囲も、かつてない盛り上がりを見せている。広島市内の書店に入れば、必ず「カープコーナー」があり、カープが特集された雑誌や、選手やOBに関連した書籍が、驚くほど数多く並んでいる。
 その半分程度は、地元の出版社から発売されたものだが、昨季限りで引退した前田智徳氏に関する書籍が今年に入りすでに2冊発行されている。近年は大手出版社からの本も増えており、ぴあや別冊カドカワなどのカープ特集号は、定番になりつつある。

 そして最近、全国区になりつつあるのが「カープ女子」の存在だ。昨年あたりから話題になりはじめ、特に関東地方の神宮球場や横浜スタジアムでは、赤く染まるレフトスタンドを華やかなものにしている。昨年の12月には、東京で「カープ女子会」が開かれ、エース前田健太も出席した。今季は、その存在を球団も認識し、5月10日にマツダスタジアムで行われる中日戦で「関東カープ女子 野球観戦ツアー」を実施。このイベントでは、東京‐広島間往復の新幹線代は球団が負担するという。

サンフレッチェ、JTサンダースも広島を盛り上げる

 その盛り上がりは、野球だけにはとどまらない。4月12日には、サッカーのJリーグ1部でFC東京を破ったサンフレッチェ広島が首位に浮上。サンフレッチェは、Jリーグ創立時10チームの1つで、一昨年、昨年と連覇を果たしている強豪だが、カープとサンフレッチェ、2つのチームが同時に首位に立つのは、史上初めての出来事だった。

 さらにその翌日には、バレーボールのV・プレミアリーグ男子に所属するJTサンダーズが、初のリーグ優勝をかけて、ファイナルラウンドの優勝決定戦に臨んだ。試合は惜しくもパナソニックパンサーズに敗れ、準優勝となったが、こちらも日本リーグの専売公社広島時代から、1度も2部降格のない名門チームが躍動したシーズンとなった。

 首都圏や大阪、名古屋以外の地方都市で、これだけ古くから各競技のトップチームが存在するのは、広島ぐらいしかない。かつては「スポーツ王国」と呼ばれた広島だが、近年はカープの不振もあり、そのイメージは消えつつあった。「強いカープの復活」によって、広島の人々は“誇り”を取り戻しつつある。

「今年のカープは強いねぇ」

 こんな街中での日常会話が、今年はいつまで続くのか。秋まで続いていれば、近年は元気がないと言われている地方都市が、久しぶりに活気づくことになる。

(大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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