ケルン長澤の実り多きドイツでの挑戦 異彩を放つホープが2部優勝を決める

本田千尋

少しずつつかんだ自分の居場所

プロとしての生活をドイツでスタートした長澤。新たな環境に身を置き、さらなる成長を目指す 【Bongarts/Getty Images】

 誰かとは違う。違うということが、武器になる。そこは異彩を放って初めて生き残ることができる世界とも言える。

 長澤和輝がブンデスリーガ2部所属のFCケルンに加入してまもなく4カ月が経とうとしている。2014年2月9日、後期開幕戦第20節、ホームでのパーダーボルン戦にてベンチ入りした長澤は、68分から途中出場し、1部昇格を期するチームの戦いに貢献した。その後5試合はベンチを温め続けたが、第26節アーレン戦の55分から再び出場の機会を得る。そして第27節のカールスルーエ戦から先発の座をつかむと、4試合連続先発出場を続けてきた。

 そして4月21日、対ボーフム戦、ここに勝てば3シーズンぶりに1部昇格を果たすというところまで、ケルンと長澤は遂にたどり着いた。
 大一番となるボーフム戦の数日前、ケルンの練習場には、変わらずトレーニングに打ち込む長澤がいた。2月、3月の頃に比べて、チームにもかなり溶け込んできており、その表情からは充実感が伝わってくる。
「最初ドイツに来た時から、充実した気持ちは特に変わらないです。日本とは全く違う環境に来て、新しく経験できることが多い。そこに関しては、すごくいい経験ができているなって思います」

 その気持ちは出場機会に恵まれなかった5試合の間も失われることはなかった。

「もちろん試合に出ることができない時期が長く続くということは大変なことではあると思うんですけど、そこにネガティブな感情を持ってもしょうがないと思うので、切り替えてやるしかないなと思っていました。それはプロ選手としては当たり前のことだと」

 そして今、先発の座をつかんでいる。チームメイトにも実力を認めさせているのだろう。練習中にはメニューを少し間違えてしまうこともあったが、「しょうがないな」という周囲の温かい笑みを誘っていた。通訳の補助が付いている長澤だが、なんでもかんでも訳してもらうのではなく、自分で何とかしようとするところも垣間見える。それもまた仲間の好反応を誘っている。

日に日に高まる地元ファンの期待

ドイツに渡りわずか4カ月弱で早くもファンの心をつかんだ 【Bongarts/Getty Images】

 加入後ドイツの地では全く無名の存在だったが、ケルンのファンの間では徐々に認知されつつある。4月5日に行われた第29節、ホームでのビーレフェルト戦に訪れた際、スタジアムの周りでケルンのユニホームを着たドイツ人に声を掛けると、長澤について「知らない」という答えが多く返ってくる中、ゴール裏に集まるファンは長澤を「知っている」と応える者が少なからずいた。

 そして「知っている」と応えたファンは、皆、長澤のプレーに惹かれているのである。あるドイツ人の少年は「背はそんなに高くないけど、プレーが速いね」と言い、ある青年は「ボールタッチがいいね。ゲームに対して良いビジョンを持っている。若くて、ポテンシャルがある」と口にした。ある年配女性は『ナガサワ』という名前を耳にするや、興奮した様子で喚き立てた。

「知ってるわよ! ganz, ganz, super !(本当に、本当に、素晴らしい!)」

 長澤はファンが目にしたその技術で道を切り開き、異国の地で居場所を確保しようとしている。長澤のプレースタイルは、ブンデスリーガ2部の舞台で、そしてケルンというチームの中で、異彩を放っている。

 ケルンのホームゲームは毎試合取材し、練習場にも訪れる地元新聞記者のトビアス・ラムペ氏は言う。
「カズキはボールを失わない。トラップの技術が素晴らしいね。彼はチームにとって新鮮な選手だ。2〜3人を相手にしても常にアイデアが浮かんでくる。ケルンには1対1や1対2の状況を個人で打開できる選手が多くはないから、それはゲームの中でとても重要な要素だ。そして彼は常に何かをしようとアイデアを持っているし、ゴールへと直結するラストパスを出そうと考えている。私たちは彼のファースト・ゴールを待っているよ」

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著者プロフィール

1981年福島県会津地方生まれ。学習院大学文学部英米文学科卒。スポーツライター養成講座「金子塾」を経て、ドイツ、デュッセルドルフへ。

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