屈辱的なシーズンは未来への布石? “タンキング”をもくろむ76ers
ファンもチームの狙いに理解を示す
“タンキング”は成功例もあるが、失敗する方が断然多い。マイケル・カーター=ウィリアムス(右)ら若手を中心に、負け癖が付いたチームを建て直すことはできるのか 【写真:AP/アフロ】
“タンキング”とは、特定チームがドラフト上位指名権などを狙って勝負を捨ててかかる行為のこと。選手があからさまに八百長を行うわけではなく、オフの時点で勝ちに行くロースターを準備しなかったり、シーズン中に主力を放出したり、スター選手を休ませるなど、フロント主導で行われるのが通常だ。
76ersも今季トレード期限間際の2月21日に、エバン・ターナー、スペンサー・ホーズといった主力選手を放出。もともと層が薄かったチームは、ここで骨抜きの状態となった。だとすれば、3月下旬まで続いた連敗記録はほとんどチーム側が導いたシナリオ通りだったと考えることもできる。
これほどに負け続ければ、ファンを落胆させることによるマイナス材料は否定できない。76ersの今季の平均観客動員数はNBAワースト2位。ただその一方で、多くのファンは76ersがやろうとしていることを理解している節もある。
「今年は厳しいシーズンだったけど、明るい未来が見えているよ。フィラデルフィアのファンはスポーツに熱心だから、ごく一部を除き、チームが何をやろうとしているかは分かっている。一時的に観客動員が落ち込んだとしても、勝ち始めればすぐにみんなアリーナに戻って来るはずなんだ」
今季ホーム最終戦が行われた4月14日、05年から絶えずコートサイドで76ersを見守ってきたというファンは満面の笑顔で筆者にそう語った。
補強のメリットより負け癖がつくダメージが大きい
「シーズンをポジティブな形で終えたい。コーチにも『とにかくハードにプレーし続けよう』と言われているんだ。プレーオフに出られないのは分かっているけど、それでもこの経験を先につなげていきたい」
そう述べた新人王候補のマイケル・カーター=ウィリアムスを先頭に、ナーレンズ・ノエル、サディウス・ヤングなど、76ersも何人かの好選手、好素材を擁している。それに加えてドラフトでスター候補を獲得できれば、遠くない未来に上位進出が可能なチームに戻っても不思議はない。
ただ……懐疑的な声もないわけではない。
「“タンキング”の成功例はあっても、失敗する方が断然多い。全体1位指名できる保証はないし、例えできたとしても、その選手がフランチャイズを変えるスーパースターになるとは限らない。チームに負け癖が付くことによるダメージの方が大きいケースが大半なんだよ」
フィラデルフィアのある地元記者は、匿名の条件でそう語ってくれた。
97年にティム・ダンカンを、03年にレブロン・ジェームスをそれぞれ全体1位指名したサンアントニオ・スパーズ、クリーブランド・キャバリアーズのように、大敗直後のドラフトでフランチャイズを変える大器を指名できたケースも存在する。しかし、98年以降にドラフト全体1位指名権を手にした中で、その後にファイナル制覇したチームは1つもないことも忘れるべきではない。
さて、今年の76ersの場合はどうか? 実はリーグ最悪の成績を残したのはミルウォーキー・バックスなのだが、それでも26連敗のインパクトが強烈だったがゆえに、76ersの動向には全米から少々風変わりな注目が集まり続けている。
運良く5月のロッタリーで当選し、なおかつ6月のドラフトで適切な選手を手にすることができるかどうか。“やり過ぎ”とまで言われた“タンキング”が功を奏し、明るい未来に一歩を踏み出せるかどうか。
敗北の日々はようやく終了――。日本でいうところの「負けるが勝ち」を体験すべく、フィラデルフィアの名門が迎える“勝負の季節”がこれから始まろうとしている。