経験値の差で王座奪回したパナソニック=男子バレー

市川忍

“ダンチ守備網”を引かれた中で、全日本の両エースは……

決勝ではスパイク決定率50.0%を記録した清水。しかし、それは“ダンチ守備網”を引かれた中での結果でもある 【坂本清】

 パナソニックの南部監督は言う。
「とにかくセッターの深津(英臣)を褒めたい。緊張することなく、冷静にトスを上げてくれました」
 全日本の司令塔・宇佐美大輔が昨シーズンをもって引退した。そのあとを引き継いだ23歳の深津の奮闘を監督は勝因のひとつに挙げた。

 確かに若い深津の活躍は頼もしかった。また清水、福澤の両エースも、昨年秋のワールドグランドチャンピオンズカップで全敗した直後、チームに戻り、リーグ期間中に天皇杯を挟む厳しい日程の中よく戦った。

 ただし、今シーズンのパナソニックの戦いがそのまま全日本の強化につながるかと聞かれれば、それほど楽天的には考えられない。これはパナソニックに限らずほかのチームにも言える問題だろう。

 決勝戦で清水は50.0%、福澤は40.5%のスパイク決定率を残したが、それは福澤の対角に入ったダンチへのマークが集中していたせいもある。

 JTのミドルブロッカー安永拓弥は言った。
「今日の試合ではとにかくダンチをマークして、何本かブロックで止めることができれば勝機はある。『ほかのアタッカーに決められたのなら仕方ない』と割り切ってでもダンチをマークするようヴコヴィッチ監督からは指示されていました」

 安永はダンチのセンターからのバックアタックを2本シャットアウトした。そしてダンチが前衛にいるローテーションでは、速いトスにセンターブロッカーが遅れても、ダンチの目の前であらかじめ待ち構えているサイドのブロッカーがダンチを止める場面も何度か見られた。

 ダンチをマークするということは、裏を返せば、パナソニックの他のアタッカーにはさほど注意が向けられていなかったということである。厳しい見方をするなら、決勝での清水と福澤の決定率はセッター深津の駆け引きと、決定力の高いダンチにお膳立てされたからこそ残せた数字だといえよう。

リーグの経験を全日本へ繋げる意識は少なかった

ダンチのようなトッププレーヤーの姿を見習い、全日本でもエースとしての活躍を期待したい福澤(奥)と清水 【坂本清】

 ダンチほど短い助走で高く跳び、スピードのあるトスを打って、得点を挙げられる選手は日本国内にはいない。しかも高さのあるダンチですら、ダンチをマークするブロックシステムの前では決定力が落ちる。新生全日本が同じことをすれば、ロンドン五輪出場を逃したときの全日本チームのように、速さを追求するあまり、パワーも高さも生かせないチームになってしまう危険をはらんでいる。

 南部監督は言う。
「近々に決めなければいけない今年度の全日本のメンバーには、まずはサイドアウト(相手にサーブ権がある状態)で得点を取るために必要な選手を呼びたいと考えています。今日の試合で言えば、JTの越川君はブロックが何枚ついても、うまくブロックに当ててボールをコートの外に出し、スパイクを決めていました。逆に同じような場面で福澤はブロックの隙間を抜きにいってスパイクをアウトにしてしまうミスがあった。そういうところをしっかり見て、アタッカーを選考していきたいですね」

 国内リーグでの成果をいかに国際大会につなげるかも重要だと思うのだが、国内で勝つことに精いっぱいであるあまり、国際大会で戦える選手を育てようと考える監督、国際大会で通用するプレーを試みようとする選手があまりにも少ないのが気にかかるリーグだった。

 ブラジル代表として数多くのメダルを獲得しているダンチのプレーから「今まで彼が経験してきた国際舞台とは対戦相手の身長が違うこのVリーグでも、自分が今までやってきたスタイルを貫く姿勢を見習った」と福澤は語るが、今後もより一層、その意識を強く持つことが大切になるだろう。

代表で指揮を執る南部監督の戦略に注目

JTにはイゴールと越川のサーブがある、という手ごたえを、全日本も同じ手ごたえを感じて欲しい 【坂本清】

 惜しくも2位に終わったJTは、サーブを武器とした戦い方で、強く、正確なサーブがどれほど相手にとって脅威であるか、そして確かな戦略が選手のメンタリティーに与える影響がいかに大きいかを証明してくれた。主将の国近公太がレギュラーラウンド中に語っていた。
「イゴールと越川さんのサーブの場面で必ず追いつくチャンスがあるという確信から、選手全員が精神的に崩れなくなったのが大きな変化ですね。昨年までに比べると、だいぶ粘り強く戦えるようになったと思います」

 あきらめない気持ちが大事だと口で言うのは簡単だが、その精神力を養うためには「この方法で必ず追いつける、逆転できる」と選手が手ごたえを感じられるチーム戦略が必要だ。

 低迷が続く全日本男子チームに最も必要なのは、この「手ごたえ」とそれを裏打ちする技術ではないか。国内リーグを有終の美で飾った南部監督が、代表チームでどんな戦略を打ち出してくるのか注目したい。

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著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

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