バルセロナ移籍禁止処分の経緯と現状 被害者はプレーの場を奪われた子どもたち

工藤拓

罰せられるのはクラブではなく子どもたち

処分の真の被害者となっているのは子どもたちだ。久保建英(右)ら10数人の子どもたちが今もプレーの場を失っている 【写真:松岡健三郎/アフロ】

「この規約は、未成年選手が教育や生活環境を保証されぬまま外国のクラブと契約するのを避けるために作られたもの。ゆえに教育、住居、食事、医療扶助など未成年の生活に必要なあらゆる条件をカバーし、第一にスポーツ選手ではなく人間を育成しているバルセロナのようなクラブは適用外とすべきだ。しかも他にも同様の違反を犯しているクラブは多数あるというのに、うちだけ処分されるのはあまりにも不公平ではないか」。今後バルセロナはそのような主張を盾に、処分撤回を求めてFIFAと戦うことになる。

 バルセロナが主張する通り、未成年選手を保護するために作った規約が、国籍が違うというだけの理由で、より良い育成環境でプレーするチャンスを奪っている現状はおかしい。重要なのは子どもがより良い環境で育つことであり、そのためには1つ1つのケースに柔軟な対応ができるよう規約を変えていく必要があることは確かだろう。

 しかし、現時点では1つの明確なルールが存在している。そしてクラブや協会がそのルールを守らなかったがために、何人もの子どもが公式戦でプレーできなくなっているという事実を、育成に関わる人々は重く受け止めなければならない。

 先日18歳の誕生日を迎え、再び公式戦でプレーできるようになったテオ・チェンドリの母が地元紙の取材に対して訴えていた。

「FIFAがこの規約を使って罰しているのはクラブではなく子どもたちです。子どもにとって試合に出られないことの辛さが分かりますか? 1週間トレーニングに励んだ末、自分だけプレーできない辛さが。公式戦は若者が成長する上で欠かせないものです。プレーできない状況が続けば、子どもは次第に自信をなくしてしまいます……」

活動停止選手には久保建英も含まれる

 今回の処分を受け、バルセロナはFIFAとの交渉がはじまるまで新たに数選手の活動を一時的に停止することを決めた。公式戦だけでなく、FIFA非公認の親善試合を含めてプレーすることができなくなった選手たちの中には、インファンティルB(13歳〜14歳のカテゴリ)で活躍する日本人のFW久保建英(たけふさ)も含まれている。

 ビクトル・バルデスの代役として内定しているGKテル・シュテーゲン(ボルシアMG/ドイツ)は来るのか。既に獲得を発表したMFアレン・ハリロビッチ(ディナモ・ザグレブ/クロアチア)は来るのか。地元メディアは連日のように騒いでいるが、別にバルセロナのトップチームがひと夏補強できないとしても、それで2部に降格するようなことなどない。むしろそうなった時こそ、カンテラの底力を見せれば良いではないか。

 それよりも重要なのは、今この時に10数人もの子どもたちが貴重なプレーの場を失っているということだ。FIFAもクラブも、一日でも早く彼らがプレー環境を取り戻せるよう早急な問題解決に努めてもらいたい。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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