バルセロナ移籍禁止処分の経緯と現状 被害者はプレーの場を奪われた子どもたち
問題となったFIFAの規約19条
FIFAから処分を受けたバルセロナ。理由は「18歳未満の国際移籍を原則禁止」としているFIFAの規約19条に違反したこととされている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
プロサッカー選手になることを夢見るアフリカや南米の少年とその親に対し、ヨーロッパのトップクラブに入団するチャンスがあるとの話を持ちかけ、渡航費などの口実で金を巻き上げる。ひどいときには、成功する見込みがないと判断するや否や、連れてきた少年を母国に帰すこともせず異国に置き捨ててしまう。近年急増している悪徳な業者や代理人による、未成年選手の国際取引に歯止めをかけるべく、FIFAはこの規約19条を09年につくった。
なお「原則禁止」としていることからも分かる通り、この規約には3つの例外が存在する。1つは移籍先のクラブが所在する町に「フットボール以外の理由で」家族とともに移住した場合(子供の移籍のために移住するのはNG)。2つ目は欧州連合(EU)加盟国間、または欧州経済領域(EEU)内の移籍に限り、16歳からの移籍が可能であること。そして3つ目は移籍先のクラブが母国の隣国にあり、選手の自宅とクラブの所在地を隔てる距離が100キロ以内、かつ両者がいずれも二カ国を隔てる国境から50キロ以内にあること(この場合、両国のサッカー協会の同意、そして選手が自宅からクラブへ通うことが必須条件となる)。
つまりこれらの条件を1つも満たさない場合、18歳未満の選手は母国以外のクラブに登録することはできない決まりなのだが、バルセロナはこの規約が施行された後も対象年齢に満たない外国籍選手と契約し、公式戦でプレーさせていたのである。
規定違反を認めてきたFCF
スペインではフベニール(ユース世代のサッカーリーグ)の1、2部を除く育成年代のチームや選手の登録が、スペインサッカー協会(RFEF)ではなく各州の協会によって管理されている。一方でFIFAはRFEFとしか直接やりとりを行っていないため、各州協会の仕事にまでは目が届かない。今回の処分においてもFIFAはバルセロナだけでなくRFEFにも50万スイスフラン(約5800万円)の罰金を科したのだが、実際に規定違反となる選手の登録を認めたのはカタルーニャ州サッカー協会(FCF)だった。
しかもFCFはバルセロナだけ特別扱いしているわけではなく、他の多数のクラブに対しても規定違反となる未成年選手の登録を認めてきた。いわばカタルーニャ州において規約19条はあってないようなもので、どのクラブも当然のように外国籍の子どもたちを受け入れてきたのである。
何者かの密告で次々に活動停止処分を受ける
事の発端は昨年2月、当時15歳の韓国人FWイ・スンウの登録が規約違反であるとの訴えが匿名でFIFAに届いたことだ。これを受けたFIFAはバルセロナに同選手の登録情報を問い合わせた上、公式戦での活動停止処分を下した。
その後FIFAは、バルセロナのカンテラ所属選手を徹底的に調査し始め、韓国人のペク・スンホとチャン・ギョルヒ、フランス人のテオ・チェンドリ、ナイジェリア系オランダ人のボビー・アデカニェ、カメルーン人のパトリス・ソウシアらが同様に公式戦への出場を禁じられていった。
その間バルセロナは、「未成年選手にとって理想的な育成環境を提供しているクラブには規約19条を適用すべきではない」と主張し、FIFAに規約の改変を提案してきた。今回の処分はその矢先に下されたのである。
処分を通達された数時間後、バルセロナは自分たちの正当性を主張する14項目の声明文を公表するとともに、処分の全面撤回を求めてFIFAに控訴し、必要があればスポーツ仲裁裁判所(CAS)にも上訴する意思を表明した。