別格の存在感を示す次世代エース南野拓実 リオ世代唯一のブラジル行きを狙える逸材

元川悦子

西が丘で組まれたU−19とU−21のガチンコ対決

西が丘で行われたU−21とU−19の練習試合に出場したC大阪の南野。全得点に絡む活躍を見せた 【写真:アフロスポーツ】

 春本番の陽気に恵まれた26日の東京・味の素フィールド西が丘。アルベルト・ザッケローニ監督以下、日本代表スタッフが勢ぞろいする中、U−19日本代表とU−21日本代表のガチンコ対決という非常に珍しい練習試合が30分×3本の形式で行われた。

 J1でコンスタントに出場機会を得ているMF野津田岳人(広島)やDF岩波拓也(神戸)、1月のU−22アジア選手権(オマーン)で4得点をたたき出したFW中島翔哉(富山)らを前に、U−19代表の若い世代は「失うものは何もない」とチャレンジャー精神を強く押し出した。
 最近の過密日程のため、前日のVONDS市原(関東リーグ1部所属)との練習試合を免除されたエース・FW南野拓実(C大阪)は「明日のU−21との試合はすごいアピールの場。みんなも自分も燃えてます。そこで何か表現しないと何も起きないので、しっかり結果を出すことを考えていい準備をしたい」と真剣勝負に向けて静かな闘志を秘めていた。

 南野は95年の早生まれだが、学年は野津田や岩波、中島らと一緒。しかも岩波、中島とは2011年U−17ワールドカップ(W杯=メキシコ)でともに戦った間柄だ。セレッソ大阪でFWディエゴ・フォルランやMF柿谷曜一朗、MF山口蛍とともにレギュラーを張っている選手として、同世代の仲間に負けるわけにはいかなかった。

南野が全得点に絡む活躍でエースの実力見せる

 その彼が出場した1本目。序盤10分間はU−21が一方的に支配した。U−19の方は思うようにボールを保持できず、守備陣が前線に蹴り出しては奪われる悪循環が繰り返される。それでも前線から組織的にプレスをかける意識だけはしっかりと持ち続け、相手のミスを誘いにいく。
 そして22分、FW宮市剛(湘南)がいい位置でボールを奪い、MF松本昌也(大分)にいったん預けて前線に抜け出したところで、ゴール前に飛び出した南野にラストパスを送った。13番をつける点取屋はGK杉本大地(京都)の位置をしっかりと見極め、確実にゴール。ショートカウンターが見事にはまり、1点をリードした。

 さらに2分後、左サイドのMF金子翔太(清水)からタテパスを受けた南野は、ペナルティエリアやや外側をドリブルで疾走。角度のないところから中へ折り返した。ここに詰めた宮市を封じようとしたDFにボールが当たり、そのままオウンゴール。絶対的エースの全得点に絡む活躍で、U−19代表は主力組対決を2−0で制した。

 南野と約2年ぶりにマッチアップした岩波は「拓実に決められたのが一番悔しい。U−17で一緒にやってた頃はそこまでゴールを取る選手という印象じゃなかったけど、セレッソでトップレベルの選手と一緒にプレーして、得点への意欲が格段に高くなった」と淡々と語っていたが、確かに彼のゴール前の迫力と精度、冷静さは頭抜けていた。

「レヴィー(クルピ=C大阪前監督)さんから『攻撃の選手は数字や』と言われたのが強く心に残っています。『ゴールするんやって気持ちを持っとけ』と毎日言われて、本当に結果が大事なんやと強く思った」と2013年Jリーグベストヤングプレーヤー賞を獲得した昨年末にも強調していたが、この試合や今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)、Jリーグでなりふり構わず貪欲にゴールへ突き進む姿勢を見ても、南野の得点へのこだわりはより一層、強まっているようだ。

「最初の10分くらいは相手に押し込まれてバタバタして、自分たちはボールを触れへんかった。相手の方がうまいし、レベルが上やなと感じました。いい形で奪ってショートカウンターから点を取れたのはよかったけど、僕らが目指しているのは、もっとボールを持つ時間を増やして相手を押し込むサッカー。そこに近づけるために、もっと意識してやっていかないといけないと思います」と彼の見据える領域はあくまで高かった。

掛け持ちよりもけがのリスク見据えU−19に専念

 その南野が1本目だけで抜けた途端、U−19は攻撃の迫力が低下。選手層の薄さを露呈し、3本トータルではU−21に4−2で逆転負けした。

 辛くも勝利を手にしたU−21の手倉森誠監督は安堵(あんど)感をにじませつつ「Jで実績を残している選手だけに試合前から期待していたけど、やっぱり(点を)取ったなという感じ。あれだけ劣勢になっても虎視眈々(たんたん)とゴールを狙っているし、とにかく動きが素早い。見ていて怖かった」と南野の存在感を称賛していた。

 彼ほどの実力と経験があれば、U−19とU−21代表と掛け持ちしてもいいはずだ。実際、小野伸二(ウエスタン・シドニー)や市川大祐(藤枝MYFC)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)ら過去の10代スター選手たちはそうしてきた。
 だが、彼らは結果的に超過密日程を強いられ、ケガや過労に悩まされた。小野が99年7月の2000年シドニー五輪アジア1次予選・フィリピン戦(東京・国立競技場)で右ひざじん帯断裂の重傷を負ったのは、まさに象徴的な出来事だった。

 こうした事例を踏まえ、協会は今、若き才能がどの年代別代表をメインに活動するかを明確に定めている。南野の場合は、今年10月のAFC・U−19選手権(ミャンマー)まではU−19に専念し、日本が3大会遠ざかっているU−20W杯出場権獲得の原動力になるという重要な責務を託されているのだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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