別格の存在感を示す次世代エース南野拓実 リオ世代唯一のブラジル行きを狙える逸材

元川悦子

「サプライズ選出」でA代表入りも目指す

2011年のU−17W杯(メキシコ)では背番号9を背負い、ベスト8入りに貢献した 【写真:MEXSPORT/アフロ】

 とはいえ、「A代表だけは別。ザック監督が必要と考えれば、若手の招集はまったく問題ない」と協会関係者も話しており、2カ月半に迫った2014年ブラジルW杯に19歳の彼が出場することは可能だ。手倉森監督も「彼はU−21じゃなくて、A代表を狙ってるんじゃないの?」とザックジャパン入りできる力があることに太鼓判を押していた。

 本人も「サプライズ選出」を本気で意識して、この練習試合に挑んだ。
「サッカー選手をやってる以上、誰もが夢だと思ってるだろうし、狙う権利もある。自分はつねにA代表に選ばれてW杯に出ることを意識してます。そのためには結果を出すことだと思うんで、今日は点を取れたことに関しては自信になると思います」と南野は素直な思いを吐露している。

 彼がW杯に強い憧れを抱いたのは、98年フランス大会がきっかけだった。ジネディーヌ・ジダン率いるフランス代表が優勝したこの大会のビデオを幼い頃から擦り切れるほど見て、脳裏に焼き付けたという。「いつか世界の大舞台に立つ」という大きな夢を抱いて、南野はゼッセル熊取FCからC大阪U−15、U−18を経て、現在の位置まで一目散に駆け上がってきた。2010年AFC・U−16選手権(ウズベキスタン)で5得点を挙げて得点王に輝いたのも、2011年U−17W杯で背番号9を背負ってベスト8入りに貢献したのもすべてその過程だった。

J1での得点と活躍がブラジル行き最後のハードル

 香川や内田篤人(シャルケ)が19歳で国際Aマッチデビューを果たしているのを考えれば、南野のA代表入りが叶ったとしても、決して早すぎるわけではない。
 実際、世界に視野を広げれば、南野世代が何人もA代表入りしている。イングランドでは19歳のラヒーム・スターリング(リバプール)が3月5日のデンマーク戦(ロンドン)でマン・オブ・ザ・マッチに輝き、ドイツでも20歳になったばかりのマティアス・ギンター(フライブルク)が同日のチリ戦(シュツットガルト)でAマッチデビューを飾っている。
 翻って日本を見ると、昨年の東アジアカップ(韓国)以降、90年生まれの柿谷や山口、大迫勇也(1860ミュンヘン)らがようやく代表定着を果たしつつあるが、彼らロンドン五輪世代はもはや若手とは言えない。南野のポジションである2列目は本田圭佑(ミラン)、香川、岡崎慎司(マインツ)という不動の3人に加え、アジア予選で貢献した清武弘嗣(ニュルンベルク)やドリブラーの齋藤学(横浜FM)らがいて、非常に狭き門なのは間違いない。

 実績重視のザック監督が10代選手を抜擢する可能性はもちろん低いだろう。それでもブラジルで大躍進を遂げたいなら、リオデジャネイロ五輪世代の台頭という新たな刺激があってもいいのではないか。

 2週間後の4月7〜9日には、5月上旬に予定されるブラジル本大会メンバー発表前最後の国内合宿が首都圏で行われる。南野がそこに呼ばれれば、長年の夢へ一歩近づくことになる。
「4月の国内合宿入れそうな感じ? それは監督が選ぶことなんで……。自分に残された時間は少ないけど、リーグ戦とかACLでできることを最大限やっていきたいと思います」と彼は慎重な物言いを崩さなかったが、若者特有のギラギラした野心は垣間見せていた。

 今週末の29日には、J1第5節、アルビレックス新潟とのホームゲームが待っている。今季ACLでは2得点しているものの、J1では現時点でノーゴールの南野にとって、この一戦での得点はA代表合宿招集に直結するといっても過言ではない。U−21代表戦で見せた傑出した決定力を維持し、目の前のハードルをキッチリとクリアしてほしいものだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント